疫病神の恋
 ここまで話してしまえば、さすがにもう放っておいてくれるだろう。
 危険にさらされるかもしれないのだ。それが迷信じみたものでも、縁起が悪いといわれるものをわざわざ身近に置いておきたい人なんていない。
 
 それなのに。聞こえてきた声は、どこまでも幸に優しかった。

「一度だけでいい。僕を信じてみてもらえませんか?」

 泣き腫らしてぐしゃぐしゃになっていることも忘れて、思わず顔を上げた。

「いくらあなたのせいではないと伝えても、きっと分かってもらえないでしょう?だからこそ、しばらくここに住んでください」
「え……?」

「全て偶然です。不運が重なっただけだって、僕が証明してみせますから」

「どういうことですか?」

「近くにいても僕が無傷であれば、結城さんのせいではないっていう証拠になりますよね」

「そんな迷惑はかけられません。優しくしてもらっても、わたしには返せるものなんて何もないです」
「返してほしいなんて思っていませんよ」

 じゃあ、なにが目的だというのだろう。
 いっそ、見返りを求められた方が楽なのに。

「どうしてそこまでしてくれるんですか……?」

「その写真を見ればわかります。あなたがご両親からとても愛されていたって。それなのに——。ずっと一人でいいだなんて、寂しいことを言わないでください」

「だけど、わたしのせいで誰かが不幸になるのは、もう嫌なんです……」
 彼が、ゆるゆると首を振った。
 
「『幸』って、素敵な名前ですよね。きっと、幸せになってほしいっていうご両親の願いが込められているんじゃないですか?」
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