疫病神の恋
「本当にすみませんでした。お見苦しいところをお見せしてしまって……」
 冷静になると、恥ずかしさが込み上げてきて、まともに顔を見ることができない。

「見苦しいことなんて全然ありません。不謹慎ですが、泣き顔も可愛いなと思いました」
「やっ!……か……!」
 やめてください!かわいいとかそういう冗談言わないでください!
 心の中で絶叫するも、拗らせたコミュニケーション不足が祟って声にはならなかった。

 しかし、成り行きとはいえまさか男性と一緒に住むことになるなんて。

 迷惑をかけて申し訳ない気持ち。彼に不幸なことが起こったらどうしようという気持ち。
 けれどそれ以上に、胸の内側に染み入るあたたかな気持ちがある。

 本当はずっと、幸のせいではない、と誰かから言ってほしかった。
 自分から拒絶しておいて我儘だけれど、強引にでも近づいてきてほしかった。
 助けてほしかった。さみしかった。
 ひとりがつらかった。

 だけど、ずっと彼に甘えていることはできない。
 彼が、何を思ってこんなに親身になってくれるのか分からない。分からないけれど、恩を仇で返すような真似だけはしたくない。
 
 そう思うのに、差し伸べられる手に、すがらずにはいられなかった。
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