疫病神の恋
 とある日曜の朝、いつもよりもオシャレな格好の彼から声をかけられた。
「夏服を買いに行きませんか?実は今日車を借りてるんです」
「えっ?いや、でも……」
「折角ですから少し遠出しましょう」

 助手席に乗ると、勝手に心臓が高鳴った。
 これはデートなんかじゃない。騒ぐ心に、何度も言い聞かせる。



「こ、ここは遊園地かなにかですか……?」
「ごく一般的なアウトレットモールですよ」
 見渡す限りに並ぶショップ、そしてヒト、ひと、人。しかもみんなきらきらと眩しくて、とてもお洒落に見える。
 ジーンズに無地のシャツ、更に日焼け防止に無地のカーディガンを羽織っている自分が浮いてしまっているようで、少し恥ずかしくなった。

「なにか見たいものはありますか?」
「え、いや、こういう場所に来るのは初めてなもので、なにがなにやら……」
「じゃあ僕に付き合ってもらってもいいですか?」

 頷く幸を連れて、悠生が慣れた足取りで店に入る。
「これとか、これも似合いそう。どうですか?」
「どう、と言われましても……」

 てっきり悠生の服を買いに来たのかと思いきや、次々に幸の体に服を合わせてくる。
「うん。全部似合う。これ、着てみてください。待ってますから」
 更衣室に押し込まれて、気が付いたら淡い水色のワンピースを着ていた。さりげなく花柄のレースが施されていて、なんとも可憐な雰囲気だ。
 カーテンを開けるとサンダルも用意されていて、全身をコーディネートされる。
「あの、わたし、仕事用のブラウスを何枚か買えればいいかなぁってつもりで——」
「折角だし、このまま着て行きましょう?初デート記念に、今だけは僕を立てていただけると嬉しいです」

 デートなどと言われると、尚更抵抗が生まれる。

「わたしには奢ってもらう理由なんてないです」
「プレゼント交換くらい、友だち同士でもよくやることです。今日は気にしないで甘えてください」

 一般的な青春を過ごしてこなかった幸は、不覚にも、プレゼント交換というイベントにときめいてしまった。
 制服以外のスカート姿なんて何年ぶりだろう。
 普段とは違う自分の姿に、心が踊る。

 誰かとする買い物が楽しいことも知らなかった。
「あの、ありがとうございます……」
 スカートのようにふわりと緩んだ顔でお礼を伝えると、悠生は一瞬固まったのち、支払いしてきます、と背中を向けてしまった。
 その耳が真っ赤になっていることに、幸は気が付かなかった。
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