疫病神の恋
「わたし、引っ越しをすることにしました」
なるべく世間話に聞こえる軽さで、悠生にそう告げた。
会社まで距離がある。家賃も予算より三万もオーバーしている。けれど、保証人が必要なく即日入居可能だということで、下見もせずに契約を決めてきた。
「待ってください!どうして急に——」
悠生が焦ったように引き止めてくる。
確かに、昨日楽しく出かけた時は、そんな話はしなかった。急だと思われても仕方がない。
それに、本当に引っ越すと決めたのは昨日桃香と話した後だから、事実、急なのだと思う。
けれど、全て本当のことを話す必要もない。
「急じゃないです、本当はもっと早く出ていくべきでした。恋人でもないのに居座ってしまっていたわたしがおかしかったんです」
「だったら恋人になればいい」
聞こえてきた言葉が、すぐには理解できなかった。
彼の声が、どこか上滑りして聞こえた。
それを言われたのが桃香と会う前だったら、喜んでいたかもしれない。
でも今は、その言葉の裏側にある思惑を考えてしまう。
「……どうして、そんなことを言うんですか」
「僕はあなたが好きです。将来のことも見据えたうえで、真剣にお付き合いしたいと思っています」
彼の頬が、僅かに紅潮していく。逸らせないほど真っすぐな強い眼差しで射抜かれる。息が詰まりそうなほどに。
告白された瞬間に、気付いてしまった。
幸も、とっくに彼を好きになっていたことに。
だって、願ってしまった。この告白が本物であればよかったのにと。
——この疫病神!
桃香の声がよみがえる。
疫病神な自分に、どうして真っ当な恋が訪れると思えただろう。
「っ……ごめんなさい」
泣きたくないから、下唇を噛んで喉の奥をぐっと閉めた。無駄な水分が込み上げてこないように。
「柊木さんとは、お付き合いできません」
「え——?」
なるべく世間話に聞こえる軽さで、悠生にそう告げた。
会社まで距離がある。家賃も予算より三万もオーバーしている。けれど、保証人が必要なく即日入居可能だということで、下見もせずに契約を決めてきた。
「待ってください!どうして急に——」
悠生が焦ったように引き止めてくる。
確かに、昨日楽しく出かけた時は、そんな話はしなかった。急だと思われても仕方がない。
それに、本当に引っ越すと決めたのは昨日桃香と話した後だから、事実、急なのだと思う。
けれど、全て本当のことを話す必要もない。
「急じゃないです、本当はもっと早く出ていくべきでした。恋人でもないのに居座ってしまっていたわたしがおかしかったんです」
「だったら恋人になればいい」
聞こえてきた言葉が、すぐには理解できなかった。
彼の声が、どこか上滑りして聞こえた。
それを言われたのが桃香と会う前だったら、喜んでいたかもしれない。
でも今は、その言葉の裏側にある思惑を考えてしまう。
「……どうして、そんなことを言うんですか」
「僕はあなたが好きです。将来のことも見据えたうえで、真剣にお付き合いしたいと思っています」
彼の頬が、僅かに紅潮していく。逸らせないほど真っすぐな強い眼差しで射抜かれる。息が詰まりそうなほどに。
告白された瞬間に、気付いてしまった。
幸も、とっくに彼を好きになっていたことに。
だって、願ってしまった。この告白が本物であればよかったのにと。
——この疫病神!
桃香の声がよみがえる。
疫病神な自分に、どうして真っ当な恋が訪れると思えただろう。
「っ……ごめんなさい」
泣きたくないから、下唇を噛んで喉の奥をぐっと閉めた。無駄な水分が込み上げてこないように。
「柊木さんとは、お付き合いできません」
「え——?」