疫病神の恋
 彼が、瞠目している。その反応が、肯定を意味している。
「違う名字で呼ばれると気付けないから、皆さんに下の名前で呼んでもらっていたんですね」

 幸の指摘ではっと我に返った悠生が顔を歪める。
「これには理由があるんです!嘘をついていたことは謝ります。でも、僕の気持ちは全て本心です!」
「鈴木さん、いや、柊木さんが優しい人なのはわかっています。なにか事情があるんだろうなぁ、とも思います。でも、今はひとりになりたいんです……」

 もう疲れてしまった。
 うれしいことも、楽しいことも、期待することも、全部に疲れた。

「安心してください。このことは、絶対に誰にも言いませんから」
 最後にしっかりと頭を下げて、かばんを抱えて身をひるがえした。
「待っ——」

 悠生が幸に向かって手を伸ばし、そして掴み損ねたことに、気が付くことはなかった。
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