疫病神の恋
彼とはただの同僚に戻った。ただの同僚よりも遠いかもしれない。
あれから二週間。
話しかけられそうになれば逃げて、視線を感じたら背中を向けて、二人になりそうな雰囲気になれば避けた。そうすることは、結局は全神経を彼に向けているということで。仕事に対するパフォーマンスは落ちたし、疲労感は増すばかり。
一度心を開いた相手から嘘をつかれていたという事実は、遅効性の毒のようにじわじわと心を蝕んだ。知った直後よりも、なんで?どうして?と彼のことを考えてしまう今の方がつらい。熟しすぎた果実のようにドロドロと心が腐敗していく感覚に襲われる。
希望も恋心も、持っているとつらいからと自分から切り捨てたはずなのに、捨てる前よりもつらくなった。
片道四十分かけての通勤で運動量は増えているのに、食欲は減るばかり。
ひとりで食べるごはんが味気なくて、朝食も抜くようになった。
鈴木部長が心配そうにこちらの様子に気を配っていることには気付いていたけれど、元気なふりをするための元気も残っていない。
定時を迎えてもまだ仕事は終わっていないけれど、残業をする気力はなかった。明日にまわしても問題ない仕事をそのまま残してタイムカードを切った。
一人でも生きていけるようにこれまでずっと節約して貯金に回してきたけれど、今日だけタクシーで帰ってしまおうか。それとも、一度甘えてしまうと、もう自分で歩く気力もなくなってしまうだろうか。
そんなことを考えていると、後ろから来た誰かに手首を掴まれた。
「大事な話があるんです。今から時間をください」
息を乱した悠生がそこにいた。
「話なんて、わたしには——」
「僕にはあるんです。お願いだから、切り捨てないでください」
懇願するように幸を引きとめる悠生の手が、微かに震えている気がした。
嘘をついていたのは悠生で、騙されたのは幸で。なのにまるで、拒んだ自分が悪者になったような気分になる。
「突然放り出される人の気持ち、わかりませんか?」
掴まれていた手首の拘束が、きゅっと強まる。
切り捨てることで自分を守っているつもりでいたけれど、彼を傷付けていたのかもしれない。
自分のことでいっぱいいっぱいで、相手の気持ちまで考えることができていなかった。
「……すみませんでした。助けてもらっていたのに、一方的に避けたりして。わかりました。お話し、聞きます」
「ありがとうございます」
くしゃりと泣き出しそうな顔でほほ笑む彼を見て、心が軋んだ。
あれから二週間。
話しかけられそうになれば逃げて、視線を感じたら背中を向けて、二人になりそうな雰囲気になれば避けた。そうすることは、結局は全神経を彼に向けているということで。仕事に対するパフォーマンスは落ちたし、疲労感は増すばかり。
一度心を開いた相手から嘘をつかれていたという事実は、遅効性の毒のようにじわじわと心を蝕んだ。知った直後よりも、なんで?どうして?と彼のことを考えてしまう今の方がつらい。熟しすぎた果実のようにドロドロと心が腐敗していく感覚に襲われる。
希望も恋心も、持っているとつらいからと自分から切り捨てたはずなのに、捨てる前よりもつらくなった。
片道四十分かけての通勤で運動量は増えているのに、食欲は減るばかり。
ひとりで食べるごはんが味気なくて、朝食も抜くようになった。
鈴木部長が心配そうにこちらの様子に気を配っていることには気付いていたけれど、元気なふりをするための元気も残っていない。
定時を迎えてもまだ仕事は終わっていないけれど、残業をする気力はなかった。明日にまわしても問題ない仕事をそのまま残してタイムカードを切った。
一人でも生きていけるようにこれまでずっと節約して貯金に回してきたけれど、今日だけタクシーで帰ってしまおうか。それとも、一度甘えてしまうと、もう自分で歩く気力もなくなってしまうだろうか。
そんなことを考えていると、後ろから来た誰かに手首を掴まれた。
「大事な話があるんです。今から時間をください」
息を乱した悠生がそこにいた。
「話なんて、わたしには——」
「僕にはあるんです。お願いだから、切り捨てないでください」
懇願するように幸を引きとめる悠生の手が、微かに震えている気がした。
嘘をついていたのは悠生で、騙されたのは幸で。なのにまるで、拒んだ自分が悪者になったような気分になる。
「突然放り出される人の気持ち、わかりませんか?」
掴まれていた手首の拘束が、きゅっと強まる。
切り捨てることで自分を守っているつもりでいたけれど、彼を傷付けていたのかもしれない。
自分のことでいっぱいいっぱいで、相手の気持ちまで考えることができていなかった。
「……すみませんでした。助けてもらっていたのに、一方的に避けたりして。わかりました。お話し、聞きます」
「ありがとうございます」
くしゃりと泣き出しそうな顔でほほ笑む彼を見て、心が軋んだ。