疫病神の恋
 座るように促されて、席に着いた。
「あたし、悠生さんから連絡が来てすごく嬉しかったのに…。デートのお誘いじゃなかったんですか?」
 桃香が頬を膨らませて拗ねるように悠生を詰った。

「すみませんが、あなたからは下の名前で呼ばれたくないです」
 聞いたことのない低い声に思わず彼の表情を見ると、冷めた視線を桃香に投げていた。

「じゃあなんだっていうんですか?わざわざ幸なんか連れてきて。っていうか、あんたやっぱり嘘ついてたのね。うちに置いててあげたのに、恩知らずなんだから」
 媚びを売っても無駄だと開き直ったのか、幸のよく知る桃香の態度になった。
「嘘をついていたのは結城桃香さん、あなたの方ではないですか?」
 なにも知らされずに連れて来られた幸には、話の筋が全く見えない。

「なんのことですか?」
 それは桃香も同じようで、怪訝な顔で悠生を睨んでいる。

「中学生の頃、幸さんの周りの人に頻発していた怪我、全部あなたの指示でしたよね?」
「え……?」
 目を見開き驚く幸に対し、桃香の挙動が怪しくなる。

「な、なんのこと?全然意味が分からないんですけど」
 あからさまに動揺している。
「あなたのご友人に証言していただいています。けがや事故は虚偽だったと」
「そんなわけないじゃない。確かに幸のことを気に入らないとは思ってたけどそこまでする理由なんてないわよ」
 悠生が大きなため息をついた。

「きっかけとなったのは、当時あなたが好意を寄せていた男の子が、幸さんに告白したのが気に食わなかったから。そう聞いていますが?」
 途端、桃香の顔がかぁっと赤くなった。
「証拠はあるの?それに、それが本当だったとしてだからなに?別にあたしは何もしていない——」

 ダン!と、悠生のこぶしがテーブルを叩いた。
「どれほどこの人を傷付けたか、分からないんですか?」
 有無を言わせぬほどの眼力で桃香を睨みつける迫力に、幸まで寒気がするほどだった。
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