疫病神の恋
 一緒に暮らし始めて一週間。

 他人と生活を共にするのは初めてのことだ。習慣の違いによるストレス、四六時中誰かと過ごすことの気詰まりなどを危惧していたが、とても順調に過ごせている。
 いや、けれど全くストレスを感じていないわけではない。

 2LDKの間取り。ファミリー向けの広いリビング。

 完全に寝室を分けて、洗面所や水回りを使う時間帯も、それぞれのタイミングで被っていないので生活リズムを崩されたわけではない。
 問題は幸のお風呂上りや寝起きなどの、無防備な姿。

 高校時代のジャージを寝巻代わりにし、タオルドライだけの濡れ髪のまま、ぽてぽてと素足で冷蔵庫のお茶を取りに来る彼女。
 その格好に色気があるはずはない。なのに。

 白い肌に上気した桃色の頬、髪の先から垂れた雫がうなじの上で跳ねる。

 そこに、唇を寄せたい。

 その衝動を抑えることに、なかなかの労力を費やしている。

 最初にジャージ姿で現れた時も、思わず「それって——」と指をさしてしまった。
「だってまだ着られるのに…。捨てるのは勿体ないです」
 照れ隠しなのか、唇をとがらせて拗ねたように言われて、うっかり抱き寄せてしまいそうになった。

 衝動的に相手にふれたいと感じる経験が初めてで、正直戸惑っている。

 果たして、いつまで手を出さずに我慢できるだろう。
 彼女には日々を笑って過ごしてほしい。それだけだったはずなのに。
< 38 / 44 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop