疫病神の恋
 今更これを言ったところで、言い訳にしか聞こえないだろう。
 二人で買い物に出かけて、告白しようと思っていた。もちろん、自分の素性を隠していたことをきちんと伝えた上で。
 彼女のワンピース姿に見惚れている場合などではなかった。

 彼女の従姉妹だという女性と、その友人に会ったことで、再び幸との間に距離ができてしまった。
 幸のトラウマはただ眠っていただけで、少し刺激すれば簡単に呼び起こされる。悠生と暮らしていたところで、根本的な解決にはならなかったのだ。

 それを突きつけられただけでも、今後どうするか悩ましいところだったのに、自ら告白する前に、隠していた秘密が暴かれてしまった。

 この家を出ていくと言われたとき、言い訳もできなかった。自分が蒔いた種だ。
 そもそも、まず最初から間違えてしまっていた。
 名前も身分も偽って近づいてきた男なんて、信じられなくなるに決まっている。

 二人で過ごす時間があまりにも楽しくて。
 好きだと言葉にしていないことなんて、大した問題ではない、むしろ、こんなにも愛おしく思っていることが伝わっていないわけがない、そう考えていた自分を殴りたい。


 あれ以来、完全に避けられていて、まともに話ができていない。
 タイミングを見て幸に声をかけようと近付くと、逃げられる。

 それでも話しかけると、こじつけとしか思えない用事を思い出して去っていく。

 ここまであからさまに避けられてしまうと、心が折れそうになる。

 ひとり暮らしには慣れているはずなのに、彼女と過ごした数カ月が忘れられない。
 幸のいる家は、あたたかく楽しかった。身分を偽っていた分際で言えることではないが、唯一素の自分でいられる場所だった。

 彼女に幸せを感じてほしい。そう願いながら、それを貰っているのは自分だったと気付いた。
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