疫病神の恋
「すみません。柊木さん、ですよね」
用事があり本社に出向いたとき、見知らぬ女性から呼び止められた。
「あの私、桃香の友人なんですけど……。あ、結城さんの中学の同級生でもあって……」
「もしかして、この前の?」
「はい、そうです!」
思い出してもらえたことにホッとしたのか、彼女が一瞬だけ笑顔になった。
「結城さんに伝えて欲しいことがあって……。待ち伏せなんかして、すみません……」
喫茶店に移動して、彼女から幸の話を聞いた。
中学時代、幸は高嶺の花のような存在だった。
凛としていて、ひとりだけ空気が違った。
それは両親を亡くしていることに起因するものだと桃香が言いふらしていたけれど、それを差し置いても大人っぽくて綺麗な子だった。
心の底ではみんな彼女と仲良くなりたくて、でも、どう話しかけたらいいのかわからなくて。
そんな中、桃香が好きだった男子が幸に告白したことで、空気が変わった。
桃香の嫉妬心に、火をつけてしまった。
父親が医者で、女子のリーダー的存在の桃香には、恐くて逆らえなかった。ただでさえ可哀相な結城さんを、騙して孤立させるなんて、本当はやりたくなかった。私は本当は、そんなイジメみたいなことしたくなかったのに。
時折涙ぐみながら、まるで被害者のように語る彼女を、冷めた気持ちで眺める。
本当に悔いているのなら本人に直接謝罪すべきだ。
無断で録音していることへの罪悪感は、この自己満足の贖罪のおかげで無くなった。
話してくれてありがとうと笑顔を作って、いくつか連絡先を聞きだした。
幸の呪いを消すには、かけた本人に解かせるしかない。
聞いた連絡先を元に、更に複数人から話を聞きだして、いよいよ桃香に連絡を取り呼び出した。
それも全部、悠生の自己満足だったのかもしれない。
身勝手な善意が、あんな事態を起こしてしまったのだから。
——来ないで
幸からそう叫ばれて、怯んでしまった。
伸ばした手は、届かなかった。
クラクションが聞こえ、幸が車道に倒れ込んだ時、目の前が真っ暗になった。絶望とはこういう感覚なのかと、地面が崩れ落ちていくようだった。
幸の気持ち知りたいと思っていたはずなのに。
目の前で大切な人を失うという感覚が、どれほどのものなのか、何一つ分かっていなかった。
用事があり本社に出向いたとき、見知らぬ女性から呼び止められた。
「あの私、桃香の友人なんですけど……。あ、結城さんの中学の同級生でもあって……」
「もしかして、この前の?」
「はい、そうです!」
思い出してもらえたことにホッとしたのか、彼女が一瞬だけ笑顔になった。
「結城さんに伝えて欲しいことがあって……。待ち伏せなんかして、すみません……」
喫茶店に移動して、彼女から幸の話を聞いた。
中学時代、幸は高嶺の花のような存在だった。
凛としていて、ひとりだけ空気が違った。
それは両親を亡くしていることに起因するものだと桃香が言いふらしていたけれど、それを差し置いても大人っぽくて綺麗な子だった。
心の底ではみんな彼女と仲良くなりたくて、でも、どう話しかけたらいいのかわからなくて。
そんな中、桃香が好きだった男子が幸に告白したことで、空気が変わった。
桃香の嫉妬心に、火をつけてしまった。
父親が医者で、女子のリーダー的存在の桃香には、恐くて逆らえなかった。ただでさえ可哀相な結城さんを、騙して孤立させるなんて、本当はやりたくなかった。私は本当は、そんなイジメみたいなことしたくなかったのに。
時折涙ぐみながら、まるで被害者のように語る彼女を、冷めた気持ちで眺める。
本当に悔いているのなら本人に直接謝罪すべきだ。
無断で録音していることへの罪悪感は、この自己満足の贖罪のおかげで無くなった。
話してくれてありがとうと笑顔を作って、いくつか連絡先を聞きだした。
幸の呪いを消すには、かけた本人に解かせるしかない。
聞いた連絡先を元に、更に複数人から話を聞きだして、いよいよ桃香に連絡を取り呼び出した。
それも全部、悠生の自己満足だったのかもしれない。
身勝手な善意が、あんな事態を起こしてしまったのだから。
——来ないで
幸からそう叫ばれて、怯んでしまった。
伸ばした手は、届かなかった。
クラクションが聞こえ、幸が車道に倒れ込んだ時、目の前が真っ暗になった。絶望とはこういう感覚なのかと、地面が崩れ落ちていくようだった。
幸の気持ち知りたいと思っていたはずなのに。
目の前で大切な人を失うという感覚が、どれほどのものなのか、何一つ分かっていなかった。