疫病神の恋
【 SIDE 幸 】

 寝返りを打とうと身を捩ったら、体がズキンと痛んで目を覚ました。
 うっすらと目を開けると真っ白な天井が目に入る。そこは病室で、幸は一瞬パニックになった。医師や警察が入ってきて両親が亡くなったと教えられた、あの日のトラウマが蘇る。

 今の状況を確認したくて呼び出しボタンを探ると、誰かが手をしっかりと握りしめてきていることに気がついた。

「……ゆうせ……さ、ん?」
 喉が掠れて、うまく声が出ない。
 覗き込んでくる瞳が、揺れている。苦し気にぐっと眉根が寄せられる。
「だ、いじょ……うぶ?」
 彼が、泣き出してしまうのではないかと思った。

 指先がゆっくりと近づき、そっと幸の頬にふれる。何かを確認するように親指で目尻を撫でたあと、大きな手のひらが頬を包み込んだ。
「よかった……。本当に、よかった」
 
 吐息で囁く小さな声が、微かに震えている。
 その時はじめて、ああ、この人は本当に幸のことを想ってくれているんだな、と心から信じられた。



 医師が来て、診察を受けた。幸は、丸二日眠っていたらしい。

 運良く、車との接触はなかった。けれど倒れた時に受け身を取らなかったので、頭を打った可能性があるとのことで入院。それまでの疲労や極度の緊張から、糸が切れたように意識を失ってしまっていた。
 足首に包帯が巻かれているのは、軽い捻挫。検査の結果、頭も打っていなかった。体のところどころが痛むのは、軽度の打ち身。
 すぐにでも退院できますよ、と医師から伝えられると、悠生は今度こそ安堵していた。
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