疫病神の恋
 どうしても一人にしたくないと言われて、悠生の家に向かうことになった。

 足を捻ったので、うまく歩けない。彼の手に支えられソファまで(いざな)われる。
 悠生の手が、まるで宝物を扱うみたいに優しい。なのに表情は晴れないし、なにも話してくれない。

 隣に座る彼を覗き込む。
「怒って……ますか?」
 喧嘩なんてしたことがない。怒らせてしまっていた場合、どうやって謝ればいいのだろう。

「怒ってなんていません。……ただ——」
 言葉の続きが聞きたくて、じっと見つめる。

「——抱きしめても、いいですか?」
 驚いた。けれど、考えるよりも先に、頷いていた。

 おそるおそる背中に回された腕に反して、息が詰まるほど強く抱きしめられた。まるで、存在を確かめるかのように。

 肩口に鼻をうずめると、彼の匂いが鼻孔をくすぐる。
 心臓がズキズキする。頭がぼうっとしてくる。

「好きなんです——。こんな気持ちは初めてで、どうしたらいいのか分からない。もう二度と嘘をつかないって誓うから、どうか嫌わないでほしい……」

 抱きしめられたまま耳元で声が響き、体がゾクリとわななく。けれど、嫌じゃない。むしろ、甘い痺れのようなものを、もっと味わいたいと思ってしまった。
「嫌いになんて、なるわけないです——」
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