弟は離れることを、ゆるさない
お弁当屋さんで働いている母の朝は早い。父も朝の六時には家を出るため、いつもキッチンには私のお弁当と葵のお弁当が置いてある。
私のお弁当と葵のお弁当を食卓に置いてあった。
朝食のクロワッサンとサラダ、ヨーグルトと牛乳が並んだ食卓で、制服に着替えた私は葵より先に朝食を取り、葵が降りてくる前に食べ終えることが今までの日課だった。
けれど、葵と歩み寄りたい私はあえて朝食を食べずに葵が来るのを待つ。三十分後、まだ制服に着替えていない葵が二階から降りてきて、私を見てはびっくりしたように目を見開いている。
「おはよう、久しぶりに朝食一緒に食べよう」
「…………おう」
葵は私の横の椅子に座り、二人で無言で朝食を食べる。何か話したいのに話題がない。
ちらっと葵の手を見る。夢で見た骨ばった手だが、長くて形の良い綺麗な指をしていた。
「……なに人の手ジロジロ見てんの」
「えっ!?いや、えっと……指キレイだなって思って」
「どうも」
せっかく葵が質問してくれたのに、会話がおわってしまった。こうなったらもう、ヤケクソだ。