弟は離れることを、ゆるさない


いつもは早々と出る風呂を、今日は一時間かけて入った琴音の元に水を入れたカップを持って行く。


ちょうどドライヤーが終わったらしい。


「途中でバテられても困るから。ちゃんと水分摂れよ」


俺の手からそっとカップを受け取る琴音。「じゃあやめる」なんて、俺の口からは絶対言わない。


「そんな緊張すんなよ」

「不安の方が大きいよ……姉弟でなんて、墓場まで持っていかなきゃいけないことを、葵はしたいんでしょ」


ひねくれた聞き方をされてしまった。

あくまでも「姉弟」でいたい琴音には、俺の気持ちは永遠と届くことはないのだろうか。


「人間皆、墓場まで持っていかなきゃいけないことの一つや二つあるだろ」


――そうだ。例え俺達の間柄に何もなくても、墓場まで持っていきたいことの、一つや二つ絶対に出てくる。


「……でも」

「俺の想いはとっくに墓場まで持って行く決心はできてる。一緒に背負ってくれるんだろ」

「――――うん」


今の琴音からしてみれば、ただ、ヤリたいだけの傲慢な弟だ。


俺だって今この瞬間、自分の想いを伝えたい。けれど、琴音が俺と同じ気持ちじゃないから伝えることができない。


暴走しそうな気持ちを落ち着かせ、琴音の唇にそっと触れるだけのキスをする。


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