弟は離れることを、ゆるさない
「……お弁当」
私が差し出すと葵は「ああ」と、私の手元に視線を向けた。
「……もういいや。今日は終わり」
葵はさらっと女の子を自分の上から退かした。そして私の所へ来て廊下に出るように合図をする。
教室のドアを閉めたかと思いきや「こっち」と私の腕を引いて、葵は私を何処かへ連れて行く。
いつもあんなことをあの空き教室でしているのだろうか。それが毎日の日常と言わんばかりな雰囲気だった。何も言ってくれないため、葵の背中を見ながら聞いてみる。
「葵はいつもあんなことをしているの?」
「いつもじゃない。琴音から拒否られてから」
聞きたいことは山ほどあるのに、まるで「琴音が悪い」と言われているようで、何を聞いたらいいか分からなかった。
「止めた方がいいと思う」
「俺が何をしようが俺の勝手だろ」
「……でも、よくないよ。学校であんなこと」
説教をしたいわけじゃないのに、どうしても説教くさくなってしまう。恐らく、今の葵には私の声は何一つ響かない。