言葉足らず。
 心臓がずっと早鐘を打つようにうるさくて、呼吸が浅くて。昨夜は、うまく眠れなかった。

 目を閉じると、まぶたの裏に鮮明に描かれてしまうあのひとの姿。
 10年近く会わずにいて、ようやく忘れられたと思っていたのに。一瞬で、あのころの記憶とともにフラッシュバックしてくる。

『親の私はこんなに貧相な生活してるのに、あんたずいぶんいいところに住んでるのね。』
『親が困ってるの、助けるのは当然でしょう?』

 幸いにも、昨夜は手は上げられなかった。
 それでも心の傷を、深く深く抉ってくる。

 心臓が、痛い。
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