言葉足らず。
 手元にあるクリップボードを胸元に抱きしめるように押し当てて深呼吸をすると、少しだけ気持ちが落ち着いた気がした。
 呼吸を整えて、病棟のスタッフステーションに足を踏み入れた。
 仕事に、私情は挟みたくない。

 スタッフステーションにいた看護師さんたちに軽く挨拶をして、担当の患者さんが入院している病室をひとつひとつまわって、体調を確認していく。

「いつもありがとうね。」
「いえ、お変わりなさそうで安心しました。」
「また来てね。」

 何度も入院治療を繰り返している患者さんたちとは、もうすっかり顔馴染みだ。
 それだけに治療を続けられなくなることも少なくない“癌”という病気の患者さんと関わることが、ときどきつらくなることもある。

 だからこそなるべく笑顔で、安心してもらえるように。
 そう決めている、のに。
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