本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
第20章 20 結婚するって本当ですか?
7月 大安吉日の日曜日――
ついにお姉ちゃんの結婚式の日が訪れた。結婚式の会場は千葉県の海沿いにあるひっそり佇む小さなチャペル。お姉ちゃんも亮平も私が計画したウェディングプランをとても喜んでくれた。
でも本当に良かったのかな? 無関係の私が2人の結婚式に口を出すなんて、そんな権利一つも無いのに。
だけど最初は渋々引き受けたウェディングプラン。いつしか3人で話し合って決める時間が私にとってはとても楽しい時間だった。直人さんと別れてずっと寂しい心の隙間が2人のお陰で埋められた。
だからかな……? 今日と言う日が来るのがとても辛くて寂しく感じるのは。
私は1人、心の整理を付けたくて、本当はお姉ちゃんや亮平と一緒にこの場所へ来る予定だったけど始発の電車に飛び乗ってここへきてしまった。勿論2人のスマホには既に連絡は入れてある。
今日と言う日を迎えるまでの出来事を色々思い出していた。お姉ちゃんと旅行もした。3人でお酒を飲んだりカラオケもした。私は幼馴染と言う立場から亮平に気軽に接する事が出来たけど、それも……もう出来なくなる。お姉ちゃんは私だけのものじゃなくなるから気軽に甘える事も出来なくなる。新婚家庭の間に割って入れるほど私は図々しい事は出来ない。
「ごめんなさい、お姉ちゃん……亮平……」
気付けば両目からボロボロ涙が零れていた。
「本当は2人の事をお祝いしてあげたいのに……今はとてもそんな気持ちになれないよ……」
自分で決めた事なのに。全ては覚悟の上だったのに。
神様、どうかお願いします。
2人が式を挙げている間……私が泣きだしませんように……。2人の幸せを心から願えますように……。
私はいつまでもいつまでも両手で顔を覆って泣き続けた—―
****
「はぁ……」
30分程泣き続け、すっきりしたので教会の前の芝生に座り、遠くに見える海をじっと眺めていた。
その時……。
カサカサと草を踏みしめてこちらへ近づいて来る足音が聞こえて来た。え? まさかもう着いたの?
「鈴音……!」
背後で声を掛けられた。振り向くとそこに立っていたのは亮平だった。急いでここまで来たのだろうか? 亮平の髪が乱れている。
「あ……亮平…‥アハハハ……ご、ごめん。先に来ちゃって……」
照れ笑いをしながら、立ち上がるとスカートの裾についた草をパンパンと払った。
「鈴音……何だって……こ、こんな心配させるような真似するんだよ……俺の気持ちを知りもしないで!」
「え?」
何だろう? 妙にひっかかる言い方をする。
「ね、ねぇ? それよりお姉ちゃんは? 2人は一緒じゃないの?」
辺りをキョロキョロ見渡すけれど、お姉ちゃんの姿は無い。
「忍なら教会の中にいる」
「あ、そう。それじゃ亮平も早く中に……」
言いかけた時、突然亮平が私の右手首を強く握りしめき来た。
「な、何っ!?」
「鈴音……俺の話を……良く聞いてくれ」
いつになく真剣な亮平の言葉に私は黙って頷いた。一体亮平は何を言うつもりなのだろう?
「鈴音。……俺は……お前が好きだ。だから……俺と……俺と結婚してくれ!」
私はまさかのその言葉に耳を疑った。
え? 嘘でしょう?
「ね、ねぇ。本気で言ってるの? それとも何かの悪い冗談だよね? 今日はエイプリルフールでも何でもないんだよ?」
亮平は頭がおかしくなってしまったのだろうか?
「ああ、そんな事は分ってる。だから俺は本気でお前に聞いているんだ。どうなんだ? お前の返事を聞かせてくれ! お前は俺の事どう思ってるっ!?」
そ、そんな……! 私の中で亮平に対する激しい怒りが沸いてきた。
「ふざけないでよ! 亮平が結婚するのはお姉ちゃんでしょう? 私は2人が結婚するって決めたから……幸せになって欲しいと願ったから、素敵な式を挙げさせてあげたいって思ったから今日まで一生懸命ウェディングプランを立てたのに……それなのに、このごに及んでお姉ちゃんから逃げるつもりなのっ!? 最っ低! 私は亮平とは結婚しないからねっ!!」
思わず亮平に向かって叫んでいた。
「鈴音……それが……やっぱりお前の答えか……?」
亮平は酷く傷ついた顔で私を見ている。
「当然でしょうっ!? 私………!」
その時――
「え……?」
その時、私は1人の男性がこちらへ向かって走って来るのを目にした。
何故? そこに彼がいるの?
男性は直人さんの弟さんだった。彼はきちんとスーツを着ている。そして私と亮平の直ぐ傍までかけて来ると荒い息を吐きながら私に尋ねた。
「その人と……け、結婚するって……ほ、本当ですか……?」
「しないわよ! するはずないでしょう!?」
誤解されたくなくて、つい声を荒げてしまった。すると隣に立っていた亮平は私の手を離すとため息交じりに笑った。
「はぁ~そっか……やっぱり俺じゃ駄目だったか……。ハハハハ……」
「そんなのは当然でしょう?」
「そ、そうなんですね……良かった……」
彼は笑みを浮かべて私を見つめた。そして後ろを振り向くと大きく声を張り上げた。
「安心していいよーっ! 彼女、この人とは結婚しないってさーっ!!」
「え……?」
私はこちらへ向かって近づいて来る人を見て、目を見開いた。
「う……嘘……」
彼はこちらへ向かって真っすぐに歩いて来る。そして私から少し距離を空けて立ち止まると照れた様に尋ねてきた。
「鈴音……今からでも……まだ間に合うかな?」
その人は……。
私の目に見る見るうちに涙がたまる。
「な……直人さんっ!!」
気付けば私は彼に向かって駆けていた――