ブルー・ベリー・シガレット



 さいきんは我ながら上手くやっていた。職場の治安は乱していないし、よそで引っ掛けた女の子もワンナイトでぷつんと切った。いろんな女の子と寝るのにも飽きてきたし、もうそろそろ良い子と出会って結婚したい。

 他人任せなその願いは中途半端な形で神様に届いてしまったらしい。


「こんばんは」


 仕事帰りだ。マンションのエントランスロビーで挨拶してくれたのは例の女の子だった。

 さらさらした短い髪を右側だけつんと尖った小さい耳にかけており、パンツスーツに身を包んでいる。その姿から想像するに童顔な社会人だったらしい。

 相変わらず俺に対しては一切の興味が無さそうだが、とりあえず挨拶はしてくれる。その礼儀がどうしようもなく嬉しくて、心の中ではお祭り状態だった。


「こんばんは」


 ご近所付き合いの挨拶で、テンションを上げてくる歳上の男なんて間違いなく引かれる。さすがにそれは、なんとなくわかる。だから俺はなるべく柔らかい口調を心がけて、遭遇にはしゃぐ歓喜の舞を抑えつつ短い挨拶を返した。

 そして前後に並ぶようにしてマンション内へと進んでいく。前回はほぼ入れ替わりだったけれと今日はふたりともマンションに帰るのだ。階によっては、エレベーターも同席できるチャンス。

 そのままふたりでエレベーターの前に立つ。どうやら彼女も乗り込むらしい、いいね。何階だろう。

 俺は浮かれていたのであまり不快に感じなかったがまともな彼女のほうはエレベーターを待つ間の沈黙に耐えられなかったのか、相手から声をかけてくれた。


「さいきん引っ越されてきたんですか?」

「え、あ、はい、先月です」

「じゃあこれからは、また顔を合わせることもあるかもしれませんね」


 薄く表面をなぞるような世間話から俺に関心がないのがよくわかる。あるいは、深掘りしすぎない線引きがよくできている賢い子だ。

 それでも、話しかけてもらえたことに高揚した俺は鼓動の高鳴りを隠しながら話の展開も期待できない下手くそな返事をしてしまう。

 あーもう、治まれ心臓。いつも上手くやれるのにこんなときばっかり口下手で、ていうかこんなの俺らしくない。いつになく要領の悪い自分にいらいらする。

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