ブルー・ベリー・シガレット
情事の後特有の微熱に蒸された湿度の高い部屋。醒めた頭はいつも、すぐ隣にある体温と大きな温度差をもっている。
「すごい、きもちよかった」
彼女は恋人に浮気されているとは到底思えないような幸福に溢れた瞳で俺を見上げていた。
その純度が高すぎるあまり、俺は罪悪感から目を逸らすしかできない。わるいけど、俺は知らないからね。責任とか、とれないし。
恋人とのツーショット写真に見守られながら致した行為は、さぞかし背徳の味がしたことだろう。
「煙草吸ってきてもいい?」
さすがに他人の寝室で喫煙するのは気が引けたので、肌着とスラックスだけをゆるく穿きながら許可をとった。
「うん、ベランダから出られます」
「ありがとう」
鞄から煙草とライターを抜き取って、広いとはいえないが開放的なベランダに出る。上半身が裸なので、当たり前にひんやりと寒い。火照ほてった身体からみるみる熱が奪われていく。
どうして俺は、気持ちが保てないのだろう。性欲の抜け落ちた頭では、一刻も早く帰りたいとしか考えられない。
行為の後に火をつける煙草は、この世でいちばん美味いからやめられない。瞼を閉じて、煙を燻らせながら脳が痺れるのを感じていた。
二本目が吸い終わる頃には体の芯まで冷えてきたので、風邪を引く前に慌てて俺は部屋に戻った。
だけど、どうやら戻るのが早すぎたみたいだ。
「パスワードわかった?」
見覚えのある黒いスマートフォンを真剣に操作している彼女を見つけ、そっとやさしい声をかけた。
すると彼女はびくっと激しく肩を震わせてしまい、さながら蛇に睨まれた蛙のごとくわかりやすく怯えて見せた。