ブルー・ベリー・シガレット



 一周ぐるりと考えた結果やはり耐えきれず、強い語気で聞き返してしまった。


「それ、まじで言ってんの?」

「え? まじですよ、だって優しいじゃないですか。わたしがひどいことばっかり言っても、こうして送ってくださるし」

「あのさ、もしかして俺に下心がないと思ってる?」


 乗り込んだエレベーターの中は必然的にふたりきりの空間がつくられてしまう。俺はわざと[開]のボタンを押して、密室になるのを防いだ。

 よい雰囲気になりすぎると困るから。俺の理性って我ながら信頼に欠けている。

 それと理由はもうひとつ、エレベーターが動くのを妨害したかった。まだ、あなたを帰したくないから。


「えええ? わたし今から襲われるんですか?」


 こちらの意図に気付いているのかいないのか、くふっと笑った彼女は呑気なものだ。いくら飲めば、ここまで酔えるのか。

 この状況なら噛み付いてキスをするくらい、俺でなくとも容易だろう。そう思われるくらい、潤んだ瞳の上目遣いには魔力が込められていた。正直かなりぐっときて、眩暈がした。

 それを誤魔化すように俺は笑って、軽く抱いていただけの彼女の肩を親指でなぞった。

 さっきまでとほぼ変わらない仕草なのに、いきなり生っぽい湿度に変化したのが伝わったらしい。華奢な肩をびくりと緊張させた。


「どうしよっか? どうされたい?」
 
「どうって、」

「お礼、なにしてくれんの?」


 自分よりも低い位置にある顔を覗き込むように屈みこみ、視線の高さを合わせる。肩を抱いたままの姿勢なので鼻先が触れてしまいそうなほど距離が近い。


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