ブルー・ベリー・シガレット
このまま攫ってしまおうか。軽率に頭を過ぎる邪念を微かに残っていたらしいピュアハートで鎮静させた。
俺が欲しいのは彼女自身だ。たった一晩だけで終わらせたりしたくない。シーナちゃんは使い捨てじゃないし、俺の方だって彼女から使い捨てにされたくない。
直感で動くことが多い俺だけど、色事においてはそれで幾度とない失敗を重ねてきた。過去には包丁を突きつけられたこともある。
シーナちゃんがヒステリックに叫び出すとは思えないのだけど、まあ、そうなる可能性ってみんなが秘めていることは知っているので。
「ふじくん、閉めてくださいよ」
いくら酔っているとはいえ、いつまで経っても閉まらないエレベーターにようやく痺れを切らしたらしい。我にかえった俺は慌てて[閉]のボタンを押した。三階と十五階のボタンもそれぞれ忘れずに押してある。
動き出すエレベーターの中、一瞬で交渉の手順を組み立てた。まずは叶いそうもない大きなお願いを口にする。
そこから順にハードルを下げてゆくと途中でまあいいかと妥協点がうまれるので、潜在力よりも高い利益が得られるという算段だ。
しかも自分はある程度『譲った』というポーズを見せられるし、相手もある程度『譲られた』と思い込んでくれる。我ながら完璧である。
まずは、無理難題をふっかけることから始めた。
「シーナちゃん、結婚しよ」
「は?」
ほろ酔いの瞳は威力が半減しているけれど、相変わらず「何言ってんのこいつ?」と蔑むような視線が投げられた。うわあ、ぞくぞくする。
「えーだめ? じゃあ付き合お?」
「いやです」
これまた一刀両断された。ここらへんはワンチャンあると思ったんだけどなあ、手厳しいねえ。
大袈裟に落胆した芝居を見せるが、まだまだ最終願望までの道のりはあるのでさくさくと交渉を進めていく。次に会う約束ができたら、じゅうぶんにこちらの勝ちだ。