ブルー・ベリー・シガレット
などと、柄にもなく謙虚に物事を捉えていたのに。
「うう、残念だけど分かった。せめて連絡先おしえてくれる?」
「あ、いいですよ」
「うえっ?!」
この段階も無理を承知でのおねだりだったので、まさかの展開に過剰に驚いてしまい、思わず奇声を発してしまった。シーナちゃんは迷惑そうに耳を塞いでいる。ごめんって。
あーもう、俺、シーナちゃん名前になるとどうしてかっこよくできないの? もう少しだったのに。
踊り出したい気分であったが、いざ喜ぼうとすると冷静な自分がぶんぶんと首を横に振る。早とちりかもしれない。落ち着いたほうがいい。俺の言う連絡先とシーナちゃんの思い浮かべる連絡先が一致しているとは限らないだろ。
意味もなく息を潜めて彼女の挙動を見つめていると、どうやらあの連絡先で正しかったようで、彼女は不審そうにこちらを一瞥してからスマートフォンを取り出した。
飾り気のない青いケースに覆われたそれは、俺と同じ機種のものだったのでちょっとだけ嬉しかった。気が合うってことだもんね、やっぱり結婚すべきかも。
『三階でございます』
せっかく良いムード(当社比)だったのに、空気を読まないエレベーターが止まりやがった。ムッと唇を結びながらも、この俺がチャンスを逃すはずはない。ふらつく足取りを支えるふりをして、自然にエレベーターから降り立った。
初めて踏み入れた三階の廊下をぐるりと見渡しながら、さりげなく俺もスマートフォンを差し出す。まだまだ粘るつもりだったのに想像よりも早い段階で承諾をもらってしまったので、気を抜くと口角が緩んでしまう。
「こんなにシーナちゃんと距離を縮められたら、幸運すぎて明日がこわいな。会社が倒産したらどうしよ」
「わたしのせいにされたら困ります」
「ねえ、どうする? 俺、毎日しつこく連絡しちゃうかもよ」
会話の片手間でシーナちゃんは若い女性らしく慣れた手つきでメッセージアプリの友だち登録を進めていく。