ブルー・ベリー・シガレット
親密になった女が次々と情緒不安定になってゆく俺のメンヘラ培養沼は、歳を重ねるごとにどんどん深くなっていった。
物や人への執着心が薄いせいで感情の起伏が小さく、落ち着いているだとかクールだとかっていう印象を持たれがちだ。人形のような母親似の容姿もそこに拍車をかけているのだと思う。
とにかく、勝手にまわりから抱かれる冷たいイメージのせいで当然の親切を行っただけでも面倒な勘違いされてしまう。
たとえば一人で重い荷物を運んでいる女子生徒を手伝ったり、ありがとうとお礼を言って微笑んだり、窓際の席で寒そうに震えていた子に上着を貸したりするだけだ。たったそれだけの行いで「藤くんって実は優しいんだ!」という程度の低いギャップ萌えが起こっている。
捨て猫を抱く不良よりも安っぽいが、これで完結すれば構わない。ひどいときには「私のこと特別に想っているのね」という勘違いまで引き起こしてしまう。これがとても厄介で何度も災難に遭遇してきた。
うちには手のかかる妹がいるので女の子の扱いには慣れている。おそらく、そういった自分の器用さが女の子を引っ掛けるフックになっているのだと思う。
自分が異性に好まれやすい容姿だと完全に自覚したのは中学生になってからだ。しかし面倒くさがりな俺は、いかにも面倒だと分かりきっている女の子と恋愛する気にはどうしてもなれなかった。
とはいえ、中学生にもなれば初めての恋人ができた。完全に顔の好みで選んだけれど性格も明るい人気者だ。快活で自己肯定感も高そうだから、彼女ならば大丈夫だろうと安易に判断した。
付き合い始めて間もないうちは、自分から連絡するよう心掛けた。女の子相手にはたまに自分からメッセージを送らないといけないことを知っている。
父は絶妙なタイミングできちんと連絡を入れる。母の機嫌が悪くなる手前で必ず甘い言葉を送信しており、そのひと手間が二人の関係性を安定させることにおいて重大な役割を担っているのは子どもの視点から見ても明らかだ。
潜在的に女からモテる術みたいなものを身につけている父親は、その魔法を遺憾なく妻ひとりに発揮している。のんきな母はうちの父がどれだけ出来た男なのか気付いていない。
これはあくまで想像だけど、まともな恋愛経験もないまま父に捕まったのだろうと思う。