ブルー・ベリー・シガレット

 そんな父を見て育っているうえに我儘な妹も持つ俺は女の子との会話に比較的慣れている。愚痴があれば聞いてあげるし「大丈夫? つらかったね」などとそれらしい言葉をかけるのも容易である。

 ここでアドバイスなんかして正論でもぶつけてみようものなら簡単に逆鱗に触れてしまう。だって彼女は解決など求めておらず、ただ共感してほしいだけだから。

 それを知っているので、俺は上の空でも口先では「俺はオマエの味方だからねえ」と恋人に囁いているばかりだった。こういうのが悪いのかもしれない。


 快活で自己肯定感の高い美少女だった恋人は、「藤くんがいないと無理」と言ってべったりと俺に依存するようになってしまった。


 彼女がキーホルダーや通学鞄など何でもお揃いにしたがるようになって、あれ、なんか恋人って面倒かもと思い始めた。

 休み時間から放課後までもずっとふたりで過ごしたがるようになったときにはかなり心が冷めてきてしまい、相手を傷付けないように言葉を選びつつ拒否する癖がついていた。

 不安を煽る俺の言動によって彼女は常に連絡をとりたがるようになっていき、エスカレートしてゆく過剰な束縛はマイペースな俺を不愉快にさせる。


 重たく纏わりつく女の子は困りものだが、お付き合いをしているうえで誠意としての気持ちが保てない自分にも非があるのは確かなことだ。

 俺は飽き性なのかもしれない。自分の手に入ってしまった獲物には魅力を感じることができなくなり、相手の熱量と反比例して下がっていく。


 しかし平和主義と見せかけた単なる面倒臭がりな俺は、わざわざ自分から別れを切り出すのも億劫に感じてしまっていた。口論に発展したらと思うと憂鬱だ。

 いっそ自然消滅を願っている。上手に距離が離れてくれてらこちらが再燃する可能性も否めない。


 そんな身勝手な期待も込めてしばらく連絡を無視したところ案の定、相手のほうが狂ってしまった。


 彼女は学校内での俺をじっとり監視して、下校する道のりはこっそり後をつけるようになった。過激化するストーカー行為に痺れを切らしていよいよそれを指摘すると、俺は首を絞められかけた。

 こうして、学校で人気者だった快活な少女は呆気なくメンヘラに堕ちてしまったのだ。


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