ブルー・ベリー・シガレット
女の人がストッキングに足を通す姿が視覚的に好きだ。適当に相槌を打ちながら目の前の光景をぼんやり眺める。
「でもって、絶妙なタイミングで甘い言葉をくれたりするでしょう?」
なるほど。意図したところではなかったけど、そういう側面は無きにしも非ずだ。それってどういうこと?
「いつも、本気なんだけどな」
思ってもないことを呟くと、「そういうところなの」と返ってきた。その声にはなんだか嫌な湿り気がある。
俺の不安定な雰囲気が相手の情緒を揺らがせているのは分かっている。同時に、その魔力が女の子を惹きつける魅力になっていることにも気付き始めている。
だけど誤ってほしくないのが、実際の俺自身は不安定でもなんでもない。むしろ、感情の起伏は小さいほうであるということだ。
「ねえ、私は藤くんのことわかってるよ」
そう囁いた彼女が期待するようにこちらを見遣ったので、俺は笑って吸いかけの煙草を灰皿にぐりぐりと押し付けた。まだ味がある火が消えて、もったいなかった。
この人もけっきょく先を望んでいるのかと落胆する。俺のことを分かっているなら、俺なんかに好意を求めること自体が大きな過ちだと分かってほしい。
情事後の煙草を失うのはやや残念に思うけれど、さーっと引いてゆく波は二度と戻ってこなかった。俺のことを好きになるような人と関係を持ち続けるのは危険である。
「さよなら、おねえさん」
一対一での恋愛をするつもりなら、俺ではない他の男を探してね。相手のためを思うような言葉ばかり、自分本位に使っている。