ブルー・ベリー・シガレット
成人した俺は、行為の後に必ず喫煙しないといけない身体になっていた。もはや煙草を美味しく吸うために面倒な行為に至っているといっても過言ではない。
しかしそれ以外では、まったく吸いたくならないのが不思議だった。付き合いで喫煙所に行けばとりあえず吸っておくけど、程度の喫煙者だ。
家族のいる場所で吸いたくないという理性がストッパーになっているのかもしれない。いつか一人暮らしをして、ヘビースモーカーな社会人になっている自分はいとも容易く想像できた。
こうして、ゆっくりと煙草に依存していくように。
「私、もう二度と藤くんに会わない!!!」
「ああ、そう」
「返信遅いし、他にも女の子がいるのを隠してもくれないし!」
健気で従順な女の子たちは吸い寄せられるように次々と俺に依存していく。彼女たちにとっては煙草よりももっと悪い毒になりうるなんて、そんなつもりないのにな。
灰色の煙を吐き出しながら、ベッドに座って泣き続ける弱った女の子に視線を投げる。
前は、こんな子じゃなかった。おしゃれが好きで健康そうで友達が多くて、だからこの子なら大丈夫かなと思ったのだけど。
きっと、俺が彼女を変えちゃったんだろうな。小さな絶望がちくりと胸を刺す。
「ごめんね、もう許してくれないよね」
煙草の先に灯っていた火を消すと、俺の中で何かが終わった。申し訳ないと眉を下げて、しゅんとしてみせる俺は名残り惜しむように女の子の頭を撫でた。
「これ以上いっしょにいても傷つけちゃうし、俺もう帰るよ」
そう告げて、服を着た俺は彼女の部屋を出た。訪れたのは今日が二度目のこの部屋に特別な思い入れも存在しない。
数分後、電車の中で開いたスマートフォンには予想通り謝罪のメッセージの通知が届いていた。それも長文で、ずらりと何通も。
またひとりの女の子が俺によって情緒をぶっ壊してしまったらしい。うーん、何故。
お願いだから捨てないで、などと書かれているのを細めた目で読み流しながら、俺は容赦なくその連絡先を削除した。