別れてママになったのに、一途な凄腕パイロットは永久溺愛で離してくれません
「RHHの採用試験、どんな感じだったの?」

「最終面接でなに、聞かれた?」

「パイロットなんてすごいよね!」

 飲み会の会場に彼が現れた瞬間、空気が変わったのを感じた。あっという間に綾人の周りには人が集まり、中心にいる彼は嫌な顔ひとつせずに対応している。

 パイロットに内定しなくても、彼の人当たりのよさや整った顔立ち、爽やかな雰囲気で十分、人々を魅了する。逆か、そんな彼だからパイロットに内定できたんだ。

 遠巻きに観察して、近くに座った学生と盛り上がる。

 しばらくしてふと周りにあまり人がいないことに気づいた。集まったのは十人ほどだったが、いろいろ席を移動して交流しているので、しょうがない。

 そろそろお開きの時間だと空いたグラスやごみをまとめる。

「楽しんでる?」

 不意に声をかけられ反射的に顔をそちらに向けた。続けてその人物に目を見開く。相手は、今日の飲み会の中心であり、みんなの関心を集めていた進藤綾人だったから。

「あ、はい」

 たどたどしく答えてつい視線を逸らした。

「山口さんだよね? 今日、まだ話してないな、と思って。改めまして、理学部三年の進藤綾人です」

「経済学部三年の山口可南子です」

 乾杯する前に一人ずつ自己紹介したとはいえ、彼が私の名前を把握していたことに驚く。それと同時に、参加者全員ときちんと会話しようとする彼の律儀さにわずかに意識してしまった自分を恥じる。

 わざわざ私に話しかけたことに他意はない。
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