別れてママになったのに、一途な凄腕パイロットは永久溺愛で離してくれません
「あの、進藤くんってRHHのパイロットに内定しているんだよね?」

 なにかしゃべらないと、と口火を切ったもののすぐに後悔する。今日、嫌というほど同じ話題を振られただろう。でも触れないのも妙だろうし。

「ああ。だからもしも飛行機を利用することがあったらRHHをよろしく頼むよ」

 葛藤していると彼はにこやかに返した。すでに内定先の宣伝をするとは抜け目ない。

 おかげでふっと気が緩む。

「いいな。一番いい場所で空が見えるなんて……素敵だね」

 口を衝いて出た言葉に彼は目を見張った。それを見て、あまりにも幼稚な発言だとすぐに思い直す。小さな子どもじゃあるまいし、パイロットと聞いたら厳しさややりがいなどもっと他にあるだろう。

 同年代の男性と話すのはどうも苦手だ。彼もあきれただろうな。

「そう。一番の特等席だと思ってる」

 ところが彼は優しく微笑んで返してきた。

「山口さんは、飛行機よく乗るの?」

 続けられた彼の問いかけに、一瞬答えを迷う。

「ううん。実は乗ったことないんだ。高いところが苦手で」

 悩みはしたが嘘をついてもしょうがない。とはいえ彼は案の定、驚いた顔になる。だから慌ててフォローを入れる。

「でも空を見るのは好きなの。飛行機から見たら、見上げるのとはまた違って空が近いんだろうな」

 白々しく思われたかもしれないが、本音だからしょうがない。彼がなにかを言いかけたとき、別の場所から「進藤」呼ぶ声が聞こえる。
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