別れてママになったのに、一途な凄腕パイロットは永久溺愛で離してくれません
「あー。くるま!」

 凌空が彼を指差すのでドキリとしたが、どうやら車に反応したらしい。外国産の有名メーカーの車のフォルムは乗り物好きの凌空には刺さるのだろう。 

 綾人は私たちに近づくと、腰を屈め凌空に目線を合わせた。

「やぁ、凌空。こんにちは。また会えたね」

 ゆっくりと話しかける彼は、子どもの相手に慣れているのだろう。凌空も嬉しそうに元気よく答える。

「こんにちは!」

 綾人と凌空の対面に私はどこか夢見心地だった。こんな日が来るなんて……。

 すると彼の視線がこちらに向いた。

「体調は大丈夫なのか?」

「うん。見ての通り元気だよ。ただ本調子じゃないみたいだから家でゆっくりさせようと思う」

 今度こそここでお別れだ。ところが、綾人は突然私の肩にかけてあった凌空の保育園鞄やプールバッグの紐に手を掛け、浮かせた。

「え?」

「こんなに大荷物で子どもまで抱えて大変だろ。せめて荷物くらい家まで運ぶ」

 続けて家の場所を聞いてくる綾人に私は狼狽えた。

「大丈夫だよ。ここからそんなに遠くないし、いつもこれくらいの荷物持って帰っているから」

「それでも気温は高いし、凌空も本調子じゃないんだろ? 俺がいるんだから頼っておけ」

 強引に荷物を取られ、呆然とする。たしかにいつもお迎えは午後六時頃なので、今はまだ日が高く暑い。凌空のことを考えたら、遠慮している場合ではないのかもしれない。
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