別れてママになったのに、一途な凄腕パイロットは永久溺愛で離してくれません
「車だと、ちょっと遠回りになるんだけど……」

 そう言ってアパートの場所を簡単に説明する。すぐそばにコンビニがあるのでわかりやすいだろう。

「いいよ。気をつけて帰れよ」

「ごめんね」

 謝罪の言葉を口にすると、綾人は複雑そうな面持ちになる。私たちは車と徒歩で別々に出発した。

「凌空歩ける?」

「抱っこ!」

 下ろそうと試みたけれど、しがみつかれ凌空を抱き直す。帽子をきちんとかぶせ、一歩踏み出した。綾人に荷物を持ってもらったのは正解だったかもしれない。

 荷物だけ持って運んでもらうなんて考えもしなかった。凌空も荷物も全部、自分ひとりで背負うのが当たり前だったから。本当に気が利くというべきか、世話焼きというべきか。

 ふうっと息を吐く。

 別れた元恋人がシングルマザーとして奮闘していたら、放っておけないものなのかな?

 綾人には親切にしてもらうどころか、恨まれているとさえ思っていた。もう二度と私の顔なんて見たくないんじゃないかって。だから普通に声をかけてもらってびっくりした。こんなに優しくしてもらえるのも。

 それだけ彼の心が広くて、私は過去の存在だとわりきっているからなのかもしれないけれど。
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