別れてママになったのに、一途な凄腕パイロットは永久溺愛で離してくれません
「ちょっと」

 さすがに抗議の声をあげると、逆に手が空いたすきに腰に腕を回され、よりいっそう密着させられる。

「警戒心なさすぎ。いつもこんな無防備に男を家に上げたりするのか?」

「あげないよ!」

 彼の声色にわずかに非難めいたものを感じ、つい反射的に返した。そこで我に返り、小さく付け足す。

「綾人のこと……信じてたから」

 この言い方は卑怯だ。でも彼に抱く特別な感情を悟られるわけにはいかない。葛藤していると綾人にそっと抱きしめられる。

「希望に添えず悪かった」

 ばつが悪そうな彼に私は小さく首を横に振る。

「私も考えなしだった」

「可南子は悪くない。俺がずるかったんだ」

 そんなことないと否定しようとしたが、強く抱きしめられ言えなくなる。

 懐かしくて心地いい温もりに、つい背中に腕を回しそうになったが、ぐっと堪えた。その代わり、ゆっくりと彼の胸を押して距離を取る。

「結婚って簡単にはできないんだよ? 綾人には私よりも相応しくてご両親が納得する相手がいるでしょ。てっきりそんな女性ともう結婚したのかと……」

 直接の跡継ぎではないものの彼はシャッツィ前社長の息子だ。それなりの相手を望まれているのは間違いないだろう。彼はそういう世界の人間だ。付き合っているときにもさんざん思い知った。
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