別れてママになったのに、一途な凄腕パイロットは永久溺愛で離してくれません
「ずっと忘れられなかった。可南子の代わりは誰もいない」

 切なそうに顔を歪め訴えかけてくる綾人に、蓋をしていた気持ちがあふれそうになる。

「わ、私……」

 言葉が続かない。この感情をどう表したらいいのか、伝えてもいいのか。

 言いよどむ私を、綾人は再び抱きしめた。

「可南子が、俺との結婚を承諾するまで離さない」

 本気なのか冗談なのか。綾人の表情は見えないが、口調は真面目だ。

 綾人と川嶋さんとの関係は理解した。綾人の気持ちも。でも仮に川嶋さんと結婚しないとしても、綾人の家柄や立場なら、私みたいな人間は結婚相手に相応しくないんじゃないか。ご両親はどう思っているの? 凌空のことだって……。

 返事をしない私を心配したのか、綾人がこつんと額を重ねて覗き込むようにして私の様子をうかがってきた。

「可南子が今、ひとりであれこれ考えていることをそのまま俺に教えてほしい」

「え?」

 そんなに顔に出ていたのか。戸惑う私に綾人は切なそうに微笑んだ。

「そうやって可南子はひとりで抱え込むくせがあるのをわかっていたのに、ちゃんと可南子に向き合えなかったことをずっと後悔しているんだ」

 痛みをこらえるような綾人の表情が視界に映り、胸がしめつけられる。

 自分の性格がそんな風に彼を思い詰めさせていたなんて思いもしなかった。

「可南子に別れを告げられて、あの時は物理的に離れるからしょうがないと自分に言い聞かせていたけれど……違ったんだ。俺が自分のことばかりだったから可南子を失ったんだって」
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