エリート外交官は溢れる愛をもう隠さない~プラトニックな関係はここまでです~
なだめるように、歌子さんが両手で包んだ私の左手をさすってくれる。
すると不意に彼女は、それまで静かにこちらのやり取りを傍観していた朔夜さんへと顔を向けた。
「そういうわけで、私たちはまた陽咲ちゃんが元気な姿を職場でみせてくれるのを心待ちにしています。会社としてもできるかぎりのサポートはしていきたいと思っているけれど、秋月さんにもぜひ、陽咲ちゃんを近くで見守って支えて欲しいの」
「っ、歌子さん?」
なにを言い出すかと思えば、多忙な朔夜さんにますます負担をかけるような歌子さんの発言に慌てる。
けれども彼は私の動揺なんて気にするそぶりもなく、間髪入れずに力強くうなずいた。
「はい。もちろんです」
「それを聞いて安心したわ。それじゃあ私は、そろそろ事務所に戻るわね。陽咲ちゃん、今はゆっくり休んで。また連絡するわ」
まっすぐな目で断言した朔夜さんに歌子さんはニッコリとうれしそうに微笑み、あっという間に病室を出ていってしまった。
残された私たちの間に、しばし沈黙が流れる。
均衡を破ったのは朔夜さんの方だ。彼は歌子さんがいた丸椅子に腰を下ろすと、深く息を吐き出した。
その疲れたようなため息は……きっと、私のせい。
彼が言葉を発するより早く、私は声をあげる。
「あの、私は大丈夫ですから。朔夜さんは、気にせず──」
「陽咲」
濡れた目もとを必死に拭いながら、明るい調子で取り繕おうとしたのに。
強い口調の朔夜さんが突然その端整な顔を寄せてきたから、息をのんだ。
彼が私に覆いかぶさるように枕の横へ片手をついたことで、ギシリとベッドが軋む。
すぐ目の前に迫った力強い瞳が、睨むように私を見つめる。
「いい加減にしないと、本気で怒るぞ。そうやっていつもきみは、周りの厚意を素直に受け取らずに遠ざける。きみのそれは遠慮じゃない、拒絶だ。きみがそうやって差し伸べられた手を拒むたび、その相手を傷つけていることに気づかないのか?」
静かな怒気がにじむ厳しい声は、私の心臓と表情をヒヤリと凍りつかせた。
呼吸すら忘れ、朔夜さんと目を合わせたまま身じろぎひとつできない。
ふと彼が小さくため息を漏らしたかと思うと、険しかった眼差しがどこか切なげなものへと変わる。
「この癖を直さない限り……きっとまたいつか、こういうことが起こる。ひとりきりで辛い気持ちを抱えて隠して、俺の知らないところでこんなにボロボロになられていたら、心臓がいくつあっても足りない。もっと……自分を大事にしてくれ。もっと、なんでも、俺に話してほしい」
まるで懇願するかのような悲痛な響きを持って、朔夜さんが私に訴えた。
甘さすら感じる低く掠れたその声音に、今度はきゅうっと胸が切なくしびれる。
私はなんとか、震える唇を動かした。
すると不意に彼女は、それまで静かにこちらのやり取りを傍観していた朔夜さんへと顔を向けた。
「そういうわけで、私たちはまた陽咲ちゃんが元気な姿を職場でみせてくれるのを心待ちにしています。会社としてもできるかぎりのサポートはしていきたいと思っているけれど、秋月さんにもぜひ、陽咲ちゃんを近くで見守って支えて欲しいの」
「っ、歌子さん?」
なにを言い出すかと思えば、多忙な朔夜さんにますます負担をかけるような歌子さんの発言に慌てる。
けれども彼は私の動揺なんて気にするそぶりもなく、間髪入れずに力強くうなずいた。
「はい。もちろんです」
「それを聞いて安心したわ。それじゃあ私は、そろそろ事務所に戻るわね。陽咲ちゃん、今はゆっくり休んで。また連絡するわ」
まっすぐな目で断言した朔夜さんに歌子さんはニッコリとうれしそうに微笑み、あっという間に病室を出ていってしまった。
残された私たちの間に、しばし沈黙が流れる。
均衡を破ったのは朔夜さんの方だ。彼は歌子さんがいた丸椅子に腰を下ろすと、深く息を吐き出した。
その疲れたようなため息は……きっと、私のせい。
彼が言葉を発するより早く、私は声をあげる。
「あの、私は大丈夫ですから。朔夜さんは、気にせず──」
「陽咲」
濡れた目もとを必死に拭いながら、明るい調子で取り繕おうとしたのに。
強い口調の朔夜さんが突然その端整な顔を寄せてきたから、息をのんだ。
彼が私に覆いかぶさるように枕の横へ片手をついたことで、ギシリとベッドが軋む。
すぐ目の前に迫った力強い瞳が、睨むように私を見つめる。
「いい加減にしないと、本気で怒るぞ。そうやっていつもきみは、周りの厚意を素直に受け取らずに遠ざける。きみのそれは遠慮じゃない、拒絶だ。きみがそうやって差し伸べられた手を拒むたび、その相手を傷つけていることに気づかないのか?」
静かな怒気がにじむ厳しい声は、私の心臓と表情をヒヤリと凍りつかせた。
呼吸すら忘れ、朔夜さんと目を合わせたまま身じろぎひとつできない。
ふと彼が小さくため息を漏らしたかと思うと、険しかった眼差しがどこか切なげなものへと変わる。
「この癖を直さない限り……きっとまたいつか、こういうことが起こる。ひとりきりで辛い気持ちを抱えて隠して、俺の知らないところでこんなにボロボロになられていたら、心臓がいくつあっても足りない。もっと……自分を大事にしてくれ。もっと、なんでも、俺に話してほしい」
まるで懇願するかのような悲痛な響きを持って、朔夜さんが私に訴えた。
甘さすら感じる低く掠れたその声音に、今度はきゅうっと胸が切なくしびれる。
私はなんとか、震える唇を動かした。