エリート会長は虐げられ秘書だけを一途に溺愛する
「そんな……お一人でこなせる仕事量ではないはずです。仕事の姿勢を見て抜擢しただいたのでしたら、それ相応の仕事をさせていただきたいです」
お願いします、と頭を下げた。だめだとしても、ここで食い下がるわけにはいかない。
「仕事をさせないわけではない。仕事をする上で、君はこれから今までの何十倍ものプレッシャーと戦っていかなければならない」
「それを承知で……」
「わかっていない」
鋭い矢が放たれる。
「俺の秘書になるということが、君には理解できないはずだ。まだ時間が必要だろう」
歩み寄ろうとすれば離れていく。愛をくれたはずなのに、私が近付くことは許されていないような気がした。
「……やはり私では、千隼さんの秘書に相応しくないということですか?」
「違う。ただ、与えることは簡単だが、受け止めてしまえば、君が俺のもとを去ったあとの苦しみに耐えられない」
「……どういうことですか?」
「部屋に戻れ。君の役目はただ──」
すっと私の横を通っていた。振り返った先で、なぜか目の前の光景がゆっくりと、スローモーションに見えていた。
ぐらりと傾いた大きな背中。私を拒絶したその後ろ姿はバランスを崩したように倒れていく。真っ直ぐ手を伸ばし、けれども届かず、どさりとした音を見て血の気が引いていく。
「千隼さん……!?」
いつだって人を厳しく射貫く瞳が今は固く閉ざされている。
電話を、人を、そう対処するので精一杯だった。秘書として大切なのは冷静でいること。それが実行できなかったのはたしかだった。
どうか目を覚ましますように。そのことだけを祈りながら手を握っていた。
初めて触れた神崎さんの体温は冷たく、このまま息を引き取ってしまうのではないかと思うと怖くなった。
大林さんが駆け付け、それからすぐに医者を呼ぶこととなった。
千隼さんの部屋で処置が行われている中、私は廊下でただ祈っていた。これ以上、人を失いたくなかった。
「杏子様」
ふっと大林さんに呼ばれて顔を上げた。
「医師によれば、千隼様は過労とのことです。要は働きすぎということですね」
「働きすぎ……」
それはやはり私のせいだ。
私が秘書として有能ならば、もっと早くに仕事をさせてもらえた。
「どうか気を落とされないでください。千隼様のご意向は、ただ杏子様をお守りしたい、その一心でしかございません」
「……私を?」
「杏子様を幸せにすることが自分の役目だと。お辛い目にはもう合わせたくないのです」
倒れるほどの疲れを抱えながら、それでもなお、なぜそこまで守ってもらえるのだろう。幸せを願ってもらえるのだろう。
お願いします、と頭を下げた。だめだとしても、ここで食い下がるわけにはいかない。
「仕事をさせないわけではない。仕事をする上で、君はこれから今までの何十倍ものプレッシャーと戦っていかなければならない」
「それを承知で……」
「わかっていない」
鋭い矢が放たれる。
「俺の秘書になるということが、君には理解できないはずだ。まだ時間が必要だろう」
歩み寄ろうとすれば離れていく。愛をくれたはずなのに、私が近付くことは許されていないような気がした。
「……やはり私では、千隼さんの秘書に相応しくないということですか?」
「違う。ただ、与えることは簡単だが、受け止めてしまえば、君が俺のもとを去ったあとの苦しみに耐えられない」
「……どういうことですか?」
「部屋に戻れ。君の役目はただ──」
すっと私の横を通っていた。振り返った先で、なぜか目の前の光景がゆっくりと、スローモーションに見えていた。
ぐらりと傾いた大きな背中。私を拒絶したその後ろ姿はバランスを崩したように倒れていく。真っ直ぐ手を伸ばし、けれども届かず、どさりとした音を見て血の気が引いていく。
「千隼さん……!?」
いつだって人を厳しく射貫く瞳が今は固く閉ざされている。
電話を、人を、そう対処するので精一杯だった。秘書として大切なのは冷静でいること。それが実行できなかったのはたしかだった。
どうか目を覚ましますように。そのことだけを祈りながら手を握っていた。
初めて触れた神崎さんの体温は冷たく、このまま息を引き取ってしまうのではないかと思うと怖くなった。
大林さんが駆け付け、それからすぐに医者を呼ぶこととなった。
千隼さんの部屋で処置が行われている中、私は廊下でただ祈っていた。これ以上、人を失いたくなかった。
「杏子様」
ふっと大林さんに呼ばれて顔を上げた。
「医師によれば、千隼様は過労とのことです。要は働きすぎということですね」
「働きすぎ……」
それはやはり私のせいだ。
私が秘書として有能ならば、もっと早くに仕事をさせてもらえた。
「どうか気を落とされないでください。千隼様のご意向は、ただ杏子様をお守りしたい、その一心でしかございません」
「……私を?」
「杏子様を幸せにすることが自分の役目だと。お辛い目にはもう合わせたくないのです」
倒れるほどの疲れを抱えながら、それでもなお、なぜそこまで守ってもらえるのだろう。幸せを願ってもらえるのだろう。