エリート会長は虐げられ秘書だけを一途に溺愛する
「……ああ、思い出した。私がお願いしたんだ、あのぬいぐるみが欲しいって」
子どものころ、デパートの中でねだったことがあった。
どうしても欲しいといって駄々をこねる私に、父は困ったような顔をするだけだった。
それから大きくなり、ぬいぐるみに関心は薄れていった。時期にその約束も忘れていたけれど。
「君の父親がずっと心残りだったようだ。当時はこれを買う余裕がなかったと」
それでも父はずっと覚えてくれていたのだ。いつか、いつか、と思っていたに違いない。
「千隼さんが叶えてくれたんですか?」
「いや、あれは君の父親からだ。”今さら自分ではもう渡せない”そう言っていた」
「……恥ずかしがり屋だったので」
まさかあれが父からの贈り物だとは思わなかった。
「あれ、じゃあこの小さなぬいぐるみは……?」
「あの大きなぬいぐるみを買ったとき、おまけでついてきたらしい。自由にしていいと言われたから飾っている」
大きなぬいぐるみを預かり、それから小さなぬいぐるみまでもらった千隼さんを想像したら、少しだけくすりと笑みがこぼれた。
飾られているぬいぐるみが愛おしく感じる。
「あ、大林さんにも千隼さんが目覚めたことを知らせてきますね」
「いや、いい。それよりも、ここにいてくれ」
そう願われてしまえば、ひとまずうなずくほかない。
わかりました、と立ち上がりかけた腰を椅子にまたつけると、
「俺も夢を見ていた」
ぽつり、千隼さんが言った。
「どんな夢か聞いても?」
「最終面接の君だ。”自分を大切にするためここにやってきた”と」
懐かしいものを、まるで慈しむように、千隼さんが微笑む。
「ほかの連中は、会社に骨を埋める覚悟だとか、何が合っても裏切らないとか、そんな安い言葉ばかりを並べる中で君だけは違った」
「そんなこと……すみません、あの日は緊張していて何も覚えていなくて……」
「いいんだ。俺はただ、君の言葉で目を覚ましたよ。自分を大切にできない人間が、人を幸せにはできないと。君のような人間がこの会社には必要だと思ったんだよ」
「それじゃあ、採用していただいたのは父との一件が関係しているわけではないんですか?」
「君が神崎グループの採用面接に来ていたことは偶然だが、あくまで君の素質を見て採用した」
子どものころ、デパートの中でねだったことがあった。
どうしても欲しいといって駄々をこねる私に、父は困ったような顔をするだけだった。
それから大きくなり、ぬいぐるみに関心は薄れていった。時期にその約束も忘れていたけれど。
「君の父親がずっと心残りだったようだ。当時はこれを買う余裕がなかったと」
それでも父はずっと覚えてくれていたのだ。いつか、いつか、と思っていたに違いない。
「千隼さんが叶えてくれたんですか?」
「いや、あれは君の父親からだ。”今さら自分ではもう渡せない”そう言っていた」
「……恥ずかしがり屋だったので」
まさかあれが父からの贈り物だとは思わなかった。
「あれ、じゃあこの小さなぬいぐるみは……?」
「あの大きなぬいぐるみを買ったとき、おまけでついてきたらしい。自由にしていいと言われたから飾っている」
大きなぬいぐるみを預かり、それから小さなぬいぐるみまでもらった千隼さんを想像したら、少しだけくすりと笑みがこぼれた。
飾られているぬいぐるみが愛おしく感じる。
「あ、大林さんにも千隼さんが目覚めたことを知らせてきますね」
「いや、いい。それよりも、ここにいてくれ」
そう願われてしまえば、ひとまずうなずくほかない。
わかりました、と立ち上がりかけた腰を椅子にまたつけると、
「俺も夢を見ていた」
ぽつり、千隼さんが言った。
「どんな夢か聞いても?」
「最終面接の君だ。”自分を大切にするためここにやってきた”と」
懐かしいものを、まるで慈しむように、千隼さんが微笑む。
「ほかの連中は、会社に骨を埋める覚悟だとか、何が合っても裏切らないとか、そんな安い言葉ばかりを並べる中で君だけは違った」
「そんなこと……すみません、あの日は緊張していて何も覚えていなくて……」
「いいんだ。俺はただ、君の言葉で目を覚ましたよ。自分を大切にできない人間が、人を幸せにはできないと。君のような人間がこの会社には必要だと思ったんだよ」
「それじゃあ、採用していただいたのは父との一件が関係しているわけではないんですか?」
「君が神崎グループの採用面接に来ていたことは偶然だが、あくまで君の素質を見て採用した」