『運命の相手』を探すあなたと落選した私
 ルシアンの療養も五ヶ月目。
 来月にはまた彼が村を発ってしまう――そう考えていたときだった。

「え? このまま村に残るの?」
「ああ、この辺りが薬草の宝庫だからか、意外と護衛の仕事があるみたいだし。やっていけると思う」
「そうじゃなくて……」

 私は夕食後の皿洗いをしながら、隣で乾拭きをしているルシアンを見上げた。
 今はもうほぼ見えるようになったという、彼の目を見つめる。
 当初に彼が懸念したように、遥か遠くまで見渡せないといけない騎士団への復帰は難しいとは思う。けれど、地方領主の私兵に志願したり、王都でなくとも都会に出てそれこそ護衛の仕事に()くという道もあるだろう。

「――お互いに一目惚れする運命の相手は、探しに行かなくていいの?」

 私の問いかけに、ルシアンが目を(みは)る。
 その目が語った彼の心の声は、「何を言っているんだ?」ではなく「どうして知っているんだ?」だった。
 それがわかってしまって、グッと(のど)が詰まる。
 けれどどうにかその喉をこじ開けて、私は話を続けた。

「ちゃんと目が治ったんだから、改めて探しに行けばいいじゃない」

 ルシアンの目から視線を外す。
 その代わりに見てしまうものも、結局は彼の手なのだけれど。
 ルシアンの手が、乾拭きを終えた皿を食器棚に戻す。

「……カエナにとって、ものすごく腹が立つだろうことを告白していい?」
「え?」

 洗い終えたばかりの皿が、私の手からするりと抜き取られた。
 妙な前置きをしたくせに黙ってしまったルシアンに、つい彼が皿を片すまでの一連の動作を見守ってしまう。
 その間、何度も口を開いたり閉じたりしていた彼は、空になった両手にとうとう観念したのか、ようやく私を振り返った。

「俺はカエナと初めて会ったとき、君が俺に一目惚れしたこと……知っていたんだ」
「えっ⁉」

 寝耳に水とはこういうことか。言い渋るルシアンを見ても大袈裟に考えているだけだろうと(たか)(くく)っていた私は、()(とん)(きよう)な声を上げてしまった。
 次いで、彼の言葉がジワジワと身に染み込んで来て、頬が()だってくる。

「しかも、今でも俺のことを憎からず思ってくれていることも知ってる。君は何でも顔に出てしまうから、多分、俺じゃなくても察しのいい人なら知ってると思う」
「嘘……」

 先程、ルシアンは「腹が立つ告白」と言った。確かにこれは腹が立つ。
 でもそれは、知っていて黙っていたルシアンに対してではない。自然を装えていると信じて疑っていなかった自分の馬鹿さ加減に対して、腹が立った。

「ずっと、知ってて……気づかない振りをしてた。俺はそうじゃなかったから、カエナの想いには応えられない、そう思って」
「! 待って。世話になったからといって、私に遠慮なんてしなくていい。ルシアンは、運命の相手を諦めなくて――」
「そうじゃない!」

 息を呑んだせいで、私の台詞は最後まで発せられなかった。
 初めて聞いたルシアンの大声に(おく)したからではなく、両腕を力強く(つか)まれた衝撃からでもなく。ただ――間近に迫った彼の青い瞳が綺麗で、意識が吸い寄せられて、私は言葉を失った。
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