【短】果たして雨宮はアンニュイなのか
あたしはふっと声を漏らすように笑った。
──そうだね。あたしの姿は雨宮にしか見えていないもんね。
「ねえ雨宮くん。前から聞きたかったんだけどさ」
東川さんは、許可を取るでもなく当然のように雨宮の隣の席に座り込んで言う。
「病弱で余命わずかな彼女がいるって本当?」
「いや」
「なんだ、ただの噂なんだね」
「でも、ずっと片思いしてた幼なじみならいるけど。ちょうど一年前のこの時期に──」
交通事故で、死んじゃったんだけど。
雨宮は、東川さんに気付かれないぐらいのほんの一瞬、ちらりとあたしを見てその言葉を飲み込んだ。
あたしが死んだのも、今日みたいに雨の降りしきる梅雨の日だった。
薄暗くて見通しの悪くなっていた交差点で、ブレーキの効きが悪くなっていたトラックにひかれた。
強すぎる衝撃に意識が消えて、次に目が覚めると──何故か、雨宮の学校にいて。
ああ、幽霊になっちゃったんだなって、透けた体を見て思った。