小林、藝大行くってよ
「そういや、姉やんは? もう仕事行ったんか?」
「なに言うてんの。杏奈は、彼ピと同棲しとるわ」
「なんやて!」

 同棲て! 同棲てつまり、婚姻関係を結んどらんカッポーがひとつ屋根の下で破廉恥なイチャラブ生活を送ることやろ!
 くそう、姉やんいつの間に……上手いことやりおって。うらやまけしからんッ!

「あんたが上京してすぐやったかなぁ。杏奈は、いつも仕事で帰りが遅いやろ? そやし、店に近い彼ピの家に泊まることが多なってな」

 確かに、美容師の仕事は夜が遅いよな。店を閉めてから勉強会やらしとるらしいし。逆におとんが朝早いさかい、いろいろ気ぃ遣わなあかんもんな。

「で、そのままゴールインや。まぁ休みの日には帰ってくるしな、彼ピと一緒に。これがまた、ええ男なんえ」

 ていうかさっきからなんやねん、彼ピて。しかも結婚しとらんのなら、ゴールインちゃうやろが。相変わらず適当やな。

 姉やんの彼ピ……もとい彼氏は、確かフリーのITエンジニアやったか。えらい稼いどるっちゅー話やけど。
 はぁ、ええなぁ。浅尾っちもやけど、なんでおれの周りにはブルジョワジーが多いんや。

 いや待てよ。類は友を呼ぶ。っちゅーことは、おれもそのうち、ブルジョワジーの仲間入りできるんちゃうか?
 きっとそうや。浅尾っちのような投資の才能はなくても、ほかのことで……。

「ほぁッ!」
「なんえ、急に。叫ばんといてや」
「ええこと思いついたでぇ~! ブルジョワジー大作戦や!」
「なんやの、ブルジャージーて」
「ブルジョワジーやッ! ブルジャージーて牛かいッ!」
「よう分からんけど、暇なら花ちゃんの部屋を掃除しとってや」
 
 そう言って、おかんはK-POPのなにがしかの曲を口ずさみながらリビングを出て行った。いや、K-POPかは分からんが、おそらくそうやろ。おかんが好きなTBSだかBSTだか、なんやそんな感じのグループの曲や。
 
 そんなことより、ええことを思いついてしもたわ。さっそく実行するために、スマホにInstagramのアプリをダウンロードした。

 おれはこれまで、SNSをやっとらんかった。面倒やったからな。そやけどいまは、SNSマーケティングの時代。インスタでアートを発信してフォロワーを増やしたら、アート系インフルエンサーとして収入を得ることも夢ではない。いや。この天才・小林なら、必ずやバズりまくりのアーティストになれるはずや!
 
 っちゅーわけで、まずはこれまでに描いた絵を地道にアップしていくとしよう。
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