小林、藝大行くってよ
 まずは、いっちゃんお気に入りの絵から上げよう。ちゃんとスマホのカメラロールに入っとるんやで。

 その絵とは……そうッ! オオミズナギドリや!
 覚えとらん読者諸君は、最初から読み返してな。あの浅尾っちをも唸らせた名画やで。

 名刺代わりの1枚は、これしかない。ひとまずこれを投稿して……おっと、ハッシュタグもつけねば。なんてハッシュタグにしたらええんやろ? 天才画伯、とかか?
 よう分からへんけど、とりあえずアート関連のものをいくつかつけておくか。

 おっと、プロフィールもきちんとせなあかん。藝大現役合格とあからさまにアピールすんのは、ちょいとやらしいな。東都藝大・日本画1年生とだけ書いといて、しれっと生年月日を添えとこ。

 アイコンは……花道を描いたイラストにしよう。我ながらキュートやで。

 よっしゃ。あとは、アート関連アカウントのフォローといいね回りや。コメントも積極的にしていくで!

 SNS運用は、地道な活動が大切なんや。いきなり万バズなんちゅーのは無理やさかい、少しずつ確実にフォロワーを増やしていくねん。

 そういや、ヨネはインスタしてそうやな。ヒデは……してへんやろな。浅尾っちは言うまでもないわ。インスタでキラキラ投稿しとったら、地球の内核まで穴掘って引きこもりたくなるほどショックやで。
 ……よし、ヨネに連絡しとこ。インスタ始めたさかい、アカウントあるならフォローと拡散よろ~……っと。

「あんた、まだゴロゴロしてんの」

 めかしこんだおかんが、リビングに現れた。……徳永さんって、男ちゃうやろな。

「ゴロゴロしてへん。マーケティング戦略展開中や」
「あ、そ」
「てか、なんでそんなにめかしこんでんねん。ワンピースなんて、おかんにとっては一張羅やろ」
「ホテルのブッヘやしな」
「ビュッフェな。あぁ、なるほど。パンツスタイルやと腹がパンパンになるさかい、ワンピースっちゅーわけか」

 すると、おかんはわざとらしく大きなため息をついた。

「あんた、モテへんやろ。どうせ大学でも浮いとるんやろなぁ」
「失敬なッ! 現役生として尊敬と羨望の眼差しがチクチクしとるっちゅーねんッ!」
「彼女のひとりやふたり、連れて帰ってくると思てたのになぁ。どうせいてへんのやろ?」
「うるさいわいッ!」

 ほんまにデリカシーのない母親やで!
 おれはモテへんのとちゃう。あまりに崇高な雲の上の存在であるがゆえに、遠慮されとるだけやねん。藝祭でのパフォーマンスで、一躍有名人になったからな。
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