小林、藝大行くってよ
 しかしあんな天才と一緒に絵を学べるなんて、藝大は最高やな。

 京都の芸術大学へ進学するっちゅー選択肢もあった。そやけど芸術家として飛躍するためには、これまでとまったく違う環境に飛び込むことが最善やという結論になったんや。

 愛する地元……そして海荷ちゃんと離れる。簡単に決断できるこっちゃなかったが、きっとこれが最適解なんやと信じとる。浅尾っちやヒデやヨネと出会えたしな。

 そういや、海荷ちゃんは元気なんかなぁ。卒業以来、まったく連絡してへんわ。あれだけラブラブやったのに……青春って儚いな。

 まぁええわ。おれはいまを生きるんや。さぁ、インスタ運用に励むで!

「お、なんやこれ」

 インスタの画面右上にある、紙飛行機のようなマークに通知がついとる。これはDMか。なんやなんや。変なアカウントからやないやろな。

 おれは慎重な男や。石橋を叩くだけではなく、補強工事をしてから渡るほど慎重なんや。詐欺やらスパムやらに騙されたりはせんぞ。

 ふむ。調べたところによると、URLを開かなければ、DMを読むこと自体は問題なさそうやな。
 しかし油断は禁物や。おれは繊細な指先の動きで、そっとDMを開いた。

「どれどれ……もしかして一佐くんですか……やて? なんや、おれのこと知っとるんか?」

 そして文章の続きを読んで、おれは仰天した。

「うううう海荷ちゃんッ!」

 そう。それは、あの海荷ちゃんからのメッセージやった。
 どうやらおすすめでアカウントが表示されて、アイコンを見てすぐにおれの絵やと分かってくれたらしい。

 ちょうど海荷ちゃんのことを考えとるときに……これはまさか! ディズニーなラヴ! ラヴなディスティニー!

「おっと、はよ返信せなあかんな。おれやで、海荷ちゃんッ!」

 まず、このアカウントが小林一佐本人のもので間違いないことを伝えた。そして近況を報告する。

 藝大は最高に楽しい場所やということ。めちゃくちゃええ友達ができたこと。藝祭の御輿パレードで踊ったこと。最後に、いま帰省中だということ。話したいことが、たくさんたくさんあるんやで。

「海荷ちゃんは元気にしとるか? 久しぶりに顔見たい……いや、これはやめとくか。下心があるように思われそうやし」

 前のめりはよくない。余裕がなさそうなのは、みっともないからな。

 モテる男は過去にこだわらん。数々の女を泣かせてきたであろう浅尾っちも、きっとそうやろ。ほっといても向こうから寄ってくるさかい、追いかける必要はないねん。
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