策略に堕ちた私
「は、はい。襲ったのは私でした。そのうえ、犯行をなすりつけようとしました」
「じゃあ、消すね」
「あ、あの、完全削除でお願いします」
「念のために録っただけだ。今、削除する」

 さすがお立場のある人。ハニトラ対策にぬかりはないんですね。早速役に立ちましたしね……。
 申し訳なさ過ぎて、顔を上げられない。

「それで私はどうすればいいでしょうか」
「とりあえず、働いてもらおうか」
「ははは、働く? どこで? あっ、マグロ漁船とか、泡のお風呂とかですか」
「えっ」

 項垂れたまま私は答える。

「取り返しのつかないことをすれば、そうなるってドラマで見ました」
「べつに、取り返しつかないことではないけどね」
「あ、そう、そうですね、社長も楽しんだって言ってましたしね」

 そう言ってしまい、顔から火が出る。
 音声の甘やかさから察するに、昨日は恋人同士のように楽しんだのだろう。
 どうりで目が覚めたとき、社長は抱きしめたりしてきたはずだ。声も甘ったるかったし。

「うんまあ、俺たち、愛し合っただけだし」

 社長の言ったワードに、私はぐおん、と殴られる。
 愛し合った?
 いやいや、愛はない。ただの行為のことを指して言ってるだけで。
 社長を見ると、素知らぬ横顔を向けて、タブレットでニュースチェックをしている。もうこちらには興味もなさそうだ。
 まあ、襲ったのはこっちだし。
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