策略に堕ちた私
 婦人科での問診票には、あらかじめ中絶の意思を書き込んだ。
 おめでとう、だなんて言われても困る。
 さっさと済ませるに限る。

「山田さん、山田よねこさん」
「米子は、よねこ、じゃなくて、まいこ、です。ふりがな、大きめに書いときましたけど?」

 私は看護師に抗議した。そこ、間違っちゃダメなとこ!

 医師はモニターの豆粒のようなものを指して言った。

「ここに入ってるね」

 唐突に、繭に包まれた赤ちゃんのイメージが頭に浮かんだ。
 一瞬、景色が揺れる。
 赤ちゃん。
 赤ちゃんが豆粒の中で眠ってるんだ。
 ここに、私の体に、赤ちゃんがいるんだ。ここに赤ちゃんがいる。
 ものすごい衝撃が来る。
 小さいくせにそれは恐ろしくて怖くて、そして、重い。
 豆粒の中で眠っているもの。
 生まれようとして待っている。

「山田さん? 山田よねこさん………? 聞こえてます……?」

 だから、まいこ、です。

「はい……」
「手術日を決めましょう。翌日も休める日を選んでください」
「はい」

 私はスマホでスケジュールを確かめた。
 ええい、スマホよ、動くな。どうしてこんなにスマホが震えるのよ。

「いつがいいですか?」
「えっと、じゃあ、この日に」
「わかりました」

 ことさら、医師も看護師も冷たい声のように聞こえてきた。
 私は赤ちゃんを殺す女だから?
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