策略に堕ちた私
 日向は米子を胸に抱きしめて、薄い目で笑った。
 日向が米子に初めて会ったのは、13歳のとき、学位取得を祖父母に報告しようと母国へ戻ったときだった。
 空港から祖父母の屋敷に向かうまでの道中でリュックを盗られてしまった。警察までの道を尋ねようにも、誰もが日向の目線を避ける。
 それは日向の優れた容姿が気後れさせているだけだったが、そんなことを知る由もない日向は、母国を随分冷たく感じた。治安は良好で人々は親切だと誇りに思っていた母国で早々にそんなことが起きて、落ち込むやら腹が立つやらだった。
 その上、猛暑だ。湿気が不快だ。
 そんな日向に声をかけてきたのが米子だった。米子は日向の状況に気づいて、颯爽と声をかけてきた。

「ねえ、何か困ってる?」
「リュックを盗られた。警察への道を教えて欲しいけど、俺が声をかけようとすると逃げられる。ここは評判とは違う国だね」

 八つ当たり気味に言った。

「少しの経験でそう決めつけるのはあなたの視野を狭くするわよ」

 そう言い返す米子を生意気に感じた。
 
「それでも第一印象は大切だ。この国の人は恥ずかしがるよりもアピールしたほうが良い」
「それは大切だけど、自分らしさを曲げてまでそうする必要はないと思うわ」
「自分らしさが本当に自分の求めている形ならね」
「それはそうかも。日本人は考え過ぎて心と態度が裏腹なことが多いから」
「少しの経験でそう決めつけるのはあなたの視野を狭くするよ」
「言い返したわね!」
 
 米子は声を立てて笑った。話のテンポが心地良い。日向は、腹立ちはすっかり消え去り愉快な気分になっていた。
 会話に夢中になっていたところで、米子は足を止めた。交番の前だった。

「じゃあ気を付けてね。この国を楽しんで」

 いつのまに買ったのか、米子は冷えたペットボトルを手渡ししてきた。
 米子のことは、日向には強烈に印象に残った。

 米子の着ていた白いセーラー服から所属する学校を割り出せれば、あとは簡単だった。名前も住所も手に入れた。
 それから米子を人を使って監視し、米子が就職すれば、自分の資産で会社を買収した。
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