気高き不動産王は傷心シンデレラへの溺愛を絶やさない
 思わずこくりと喉を鳴らしていた。

 甘い白桃の香りが、ゆっくりとお腹の奥に落ちていく。

 うれしいようなそうでないような感情が胸の内に広がった。

 彼は私の好きなものを覚えてくれる。でもそれは、好意からではなく契約夫婦を演じるうえで必要だからだ。

 そうでなければ、夫の役目なんて言い方はしないだろう。

「今日はいい日になった。君が普段、どんな過ごし方をしているかもわかったし、好きな味も知れた。なにより今、とても夫婦らしい時間を過ごせている」

「……たしかにそうかもしれないね」

 世の中の夫婦がどんなふうに過ごしているのかは知らない。でも今の私たちを見て、契約夫婦だと思う人はそう多くないだろう。

 他人行儀な響きの関係にしては、私も志信さんも自然と肩の力を抜いている。少なくとも私はそうだ。彼もそうであってほしいと思う。

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