気高き不動産王は傷心シンデレラへの溺愛を絶やさない
 夫婦になってから初めての口づけは、知らないうちに熱くなっていた頬に落ちた。



 円香の悩みを聞いて明確になった私の悩みが、果たして今日解決するのかどうか。

 デートの当日を迎え、昼の時間を譲られた私は彼を水族館へ連れて行った。

 自分の好きな場所ということで選んだのだけれど、これが大失敗だった。

「ごめんなさい。あなたが関わっていた事業とは知らなくて……」

「俺も事前にどこへ行くか聞いておけばよかった。すまない」

 十年前、再開発された土地に誕生した水族館は、今や地域どころか県の観光地の定番になっている。近くに大型商業ビルが建ったのも大きい。

 そこに携わっていたのが株式会社ウェヌスクラース。そう、志信さんの会社だ。

 デート先にそこの代表取締役を呼ぶなんて、彼についてなにも知らない最たる証拠だろう。

「今からでも違う場所に……」

< 176 / 276 >

この作品をシェア

pagetop