気高き不動産王は傷心シンデレラへの溺愛を絶やさない
「いや、ここにしよう。君が自分を知ってもらうために、一番いい場所だと思ったんだろう? だったら移動する理由はない」

「だけど私よりあなたのほうがここに詳しいよ」

「客として来たことは一度もない。新鮮でいいな」

 誰がどう考えても失敗なのに、そんな言い方でフォローしてくれる。

 こうなったら、せめて彼を楽しませようと思った。



 薄暗い館内を歩きながら、なぜここをデート場所に選んだのかを説明する。

「ここね、高校の卒業旅行で来たの。円香との思い出の場所なんだ」

「そんなに昔から友だちだったのか」

 うなずいて、大きな水槽に近づく。

「こんなに大きな水槽の前じゃ、隠し事もできそうにないねって。なんでそんな話になったんだったかな。でもここで、お互いに思ってることを全部言い合ったの」

 志信さんともそんなふうになれたら――。

 言外に願いを込めて、水槽を見上げた。

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