気高き不動産王は傷心シンデレラへの溺愛を絶やさない
 志信さんがそっと水槽に手を触れさせる。

 興味を惹かれたのか、それとも偶然か、平たい顔の魚がのっそりと近づいてきた。

「水無月家といえば、有名な医者の一族をいう。俺も将来は絶対に医者になれと言われてきた。自分で言うのは恥ずかしいが、昔から成績はいいほうだったし」

「でも、ならなかった?」

 志信さんが深くうなずく。

「高校生の時、藍斗に引っ張り出されて、とあるリゾート地に行ったんだ」

 プレザントリゾートを共同開発した筑波社長の名前が出てきて驚く。友人関係にあるのは知っていたけれど、まさか高校生の時にはもうそうだったとは。

 彼らが今、三十二歳なのを考えると、実に十五年近く友人でいることになる。

 それだけの長い付き合いをするのは、自分と円香くらいだと勝手に思っていた。

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