初恋シンドローム

「あ、ありがとう」

 動揺を拭えずに小さくお礼を告げる。
 心臓が騒がしいのはきっと、転びかけてひやりとしたせいだ。

 彼は顔を背けたまま「ん」とだけ答え、再び歩き出す。

「……ほら、そんなだから見張ってないと不安になる」

「悪かったね、ドジで!」

 むっとして言い返すものの、それから思わずほんのりと笑ってしまった。

「でも、悠真って優しいよね。昔から」

 そう言おうとしたわけじゃなかったのに、思ったことがこぼれた。
 いまとなっては、誰よりそばにいてくれている存在だ。

 彼の手がしっかりと支えてくれた腰のあたりに触れてみる。
 気のせいだと分かっているけれど、ちょっとだけ熱を感じた。

「誰にでも優しいわけじゃないよ」

 思わぬ言葉だった。
 彼を見上げても、今度はそれ以上何かを口にする気はないらしく、前を向いたままつぐんでいる。

(ど、どういう意味なの?)

 いっそう速まった心音に戸惑いがかき立てられた。

 口数が少ないのは相変わらずだけれど、だからこそいまはもどかしくさえ感じる。

 確かに悠真はわたしを大事に思ってくれているのかもしれない。
 先ほどの行動や普段の態度からして、勘違いじゃなければそうなのだと思う。

 だけど、それが“幼なじみ”としてではなかったとしたら?

(どうしよう……)

 じんわりと熱を帯びた頬を両手で包み込む。

 何だか急激に彼の存在感が増した。
 心の隙間に滑り込んできて、どうしたって意識してしまう。

 当たり前に歩けていたはずの悠真の隣という居場所に、いつの間にか緊張を覚えつつある自分がいた。
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