初恋御曹司と失恋部下の、一夜から始まる甘い恋
スマホを出して耳に当てた。

「お疲れ様です、恭二です」
『おー、お疲れ様。どうかした?』

琴葉の送迎を頼んでいる運転手の延原さんは親父の親戚で、俺はおじさんと呼んでいる。
彼は人前でなければこんな風にフランクに接してくれる。

「おじさん、今仕事が終わったから琴葉の迎えは俺が行きます」
『そうかい。じゃあ、また来週の朝に迎えに行くよ』
「はい、よろしくお願いします。今週もお疲れさまでした」

電話を切ると、車でコーヒーショップへ向かった。

コーヒーショップの駐車場に車を止めた時、店の中から伊藤が出てくるのが見えた。
ここには徒歩で来ていたのか、駐車場に伊藤の車は見当たらなかった。

伊藤は俺の車には気づくことなく、俯いて唇を噛み、足早に会社の方に向かって歩いて行く姿を見て少し複雑な気分になった。

まだ琴葉は店の中にいるんだろうか。
エンジンを切った時、琴葉が店から出てきたので車から降りて彼女を呼び止めた。

「琴葉」
「あ、恭二くん……」

心なしか、元気のない声。
それもそうだろう。
人に告白するのも勇気がいるけど、断るのもそれなりに気力がいる。
なんなら断る方が精神的にも大変だろう。

しかも、伊藤は同じ職場だから断りづらかったと思う。
琴葉のことだから、きっといろいろ考えて傷つけないように言葉を選んで話したはず。
今日はとことん琴葉を甘やかしてやりたい気分だ。

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